Smiley face
写真・図版
福沢諭吉の肖像の旧1万円札

 北海道でシングルマザーとして3人の子どもを育ててきたカイフクさん。

 次女は高校時代、週末や長期休みにホテル清掃のアルバイトをしていた。

 母子家庭でぜいたくはできない中でも、欲しいものはあるし、好きなミュージシャンのライブにも行きたい。

 そのための費用は、自らのアルバイト代で賄っていた。

 反抗期と呼べる時期もなく、母が寝坊した朝には姉や弟の朝ごはんも用意してくれる、面倒見のいい子だった。

 そんな次女が高3の時、列車で1時間ほどの大型商業施設に友人と買い物に行ったときのこと。

 しばらくして、仕事が休みで自宅にいたカイフクさんのスマートフォンが鳴った。

 かけてきたのは次女で「財布を無くして、今捜してる」とのことだった。

 詳しく事情を聴いて、立ち寄ったお店やサービスカウンターに行ってみるように伝えた。

 その後、「財布が見つかった」と連絡があったが、中に入っていた1万円が無くなっているという。

 帰りの切符代はあるとのことだったので、とりあえず帰ってくるように伝えた。

 帰宅して母の顔を見るなり、次女は泣き出してしまった。

 母が「財布を落としたことは残念だけど、勉強代だと思って諦めよう」と声をかけると、次女はこう言った。

 「1万円は大きいよ……」

 それを聞いて、母も泣いてしまった。

 自身もホテル清掃の仕事をした経験があり、大変な仕事だということはわかっている。

 そんな仕事を一生懸命にこなして手にした1万円。

 アルバイト中の次女の姿を想像したら、自然と涙がこぼれてきた。

 金額的なことも含めて、警察に届けてもきっと戻ってこないだろう。

 そう思っていたが、次女の涙を見て「できることをしよう」と思った。

 次女を車に乗せて、商業施設の近くにある交番に向かった。

被害届を出して

 「こういうのは、なかなか見つからないものなんですよ」

 対応した警察官からは、そんな風に言われた。

 今回は1万円という金額だから真剣に捜してくれないかも、と感じた。

 「わかってるけど、あきらめ切れないで来てるんです。警察官がそれを言わないで!」

 心の中でそう思ったが、口にはしなかった。

 経緯を説明して被害届を出し、財布についていた指紋をとってもらうことに。

 「何かしらの動きがあったら連絡します」と言われ、2人で帰宅した。

2日後に電話が

 「1%でも可能性があるなら」と届け出たが、期待はしていなかった。

 ところがその2日後、交番で…

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