棚いっぱいにエタノール漬けの魚がずらり。ここは、鹿児島市の鹿児島大総合研究博物館にある「魚類標本庫」だ。
南日本や東南アジアを中心とした魚の標本約30万点が保管されている。個体ごとの写真やDNA鑑定用の肉片もそろえていることが大きな特徴で、こうした魚類標本のコレクションとしては、アジア最大という。
魚類分類学が専門の館長、本村浩之さん(51)が20年かけて集めてきた。
2005年に館長に赴任したときは、保管数わずか16点だった。本村さんは標本の重要性を力説する。「魚類を学術標本として適切に残すことで、後世の人が生態や当時の環境など貴重な情報を得ることが出来るんです」
標本となる魚は、本村さんや歴代の大学院生たちが琉球列島周辺をはじめ、東南アジアなど海外まで足を運んでコツコツと集めてきた。ベトナムでは、採集の許可を得るために5年通ってようやく認められた。現地の担当者に理由を説明した際「食べるためでなく、標本として残すことの重要性」を理解してもらうのに苦労したという。
全国に張り巡らせたネットワーク 珍魚送ってくれる漁業関係者も
標本は今も増え続けている。その土台にあるのは、本村さんが20年かけて作りあげたネットワークだ。
全国各地の水族館や漁業関係者など多くの協力者から、毎日のように冷凍された状態で魚が届く。珍しい魚が市場に出ていれば、自腹で競り落とし、送ってくれる水産会社の関係者もいる。
魚を提供してくれた人には…