アジアン・カンフー・ジェネレーションの後藤正文さん

 久しぶりに若い世代のバンドとスタジオに入り、プロデューサーという立場でアルバム制作に参加している。

 スタジオ仕事の経験は、彼らよりもいくらか長い。ゆえに「こうしたら上手(うま)くいく」と感じることが何度もある。しかし、アドバイスには録音や演奏などの技術や方法に関係するものと、彼らならではの独創性に触れるものがある。録音の現場での経験は彼らよりもあるが、彼らの楽曲そのものに参加した時間は、彼らよりも短い。このふたつの「経験」の違いについて、よく考えながら、自分の意見を伝えるようにしている。

 自分にできることは何だろうかとよく考える。それは環境を整えることではないかと強く思うようになった。

 優れたスタジオでは、音の違いがよくわかる。狭い自室では分からなかった演奏の機微を感じることができるようになる。それだけで、弦を弾いたり、ドラムを叩(たた)いたりするときのタッチが変わる。性能の高いマイクとスピーカーによって、自身の演奏の課題があらわになり、ショックを受けることもあるが、進むべき道が見える。どんなに強い言葉よりも、環境の変化こそが演奏者を変える。

 みんなが気持ちよく音楽制作に取り組めるということも、整えるべき環境のひとつだと思う。優れた性能の楽器や機材に囲まれていても、参加者たちが互いに萎縮し、意見を交換することを躊躇(ちゅうちょ)するような関係性では、作品が前進しなくなってしまう。誰かを従わせようという力を、現場の管理を担う役職の者が積極的に排すること、その勾配に敏感であることは、とても大事だと思う。

 音楽的な達成を阻むのは、単に時間と費用の問題であることが多い。そこを大人たちが丸っと支えてあげられるならば、放っておいても彼らは素敵な音楽を作ると思う。

 これは音楽だけに限った話ではない。(ミュージシャン)

 ◇毎月第4日曜日に掲載します。

共有
Exit mobile version