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 少子化が進み、部員不足に悩む野球部は多い。出場できないかもしれない。そんな不安や悩みと向き合ったからこそ、プレーできる喜びはひとしおだ。

 由布(大分県由布市)は昨夏の大会で敗退した直後、3年生が引退し、部員が5人に。さらに単独で試合に出場できないことから2年生の4人がやめた。1年生だった池田康平さんだけが残った。

 1人で何ができるか、悩んだ。それでも野球が好きという思いは変わらないことに気付いた。「高校野球に打ち込めるのは人生で今だけ」。コーチと2人きりでティー打撃やキャッチボールを繰り返した。

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由布の池田さん=2025年6月1日午前9時54分、大分県由布市、山本達洋撮影

 4月に着任した世利謙典監督(30)はそんな池田さんの姿に「なんとか試合をやらせてあげたい」。一度は退部した4人を説得して呼び戻した。さらに彼らの友人や新入生も入部し、部員は計9人になった。シートノックやケースバッティングなど、実戦的な練習ができるようになった。

 全員の総意で、主将は池田さんが選ばれた。復帰した佐波伶夢さん(3年)は言う。「自分たちがやめても池田が1人で続けてくれたから今がある。池田は本当に野球が好きなんだと思ったし、感謝している」

 池田さんは「先輩たちと悩みを共有できて、励まし合えるのが何よりうれしい」と笑う。チームの目標は夏の大会での1勝だ。

 天草(熊本県天草市)はこの夏、単独チームで出場できる喜びをかみしめる。昨秋や今春は他校との連合チームだったが、今年、新入生が7人入部。部員が14人になった。

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練習後のミーティングをする天草の部員と橋口将也部長(左)=2025年6月5日午後5時47分、熊本県天草市本渡町本渡、伊藤隆太郎撮影

 険しい地形で平野部が少なく、校庭も狭いため、2キロ離れた市営の球場を定期的に使う。周囲には「イノシシに注意」の看板も。実戦形式の練習では、守備の9人が次々と位置を交代しながら打席にも立ち、休む間はない。

 「人数が少ない分、高密度。大会までに一層の力をつけたい」と富岡智法監督(36)。左腕のエースで主将の浦上晴生さん(3年)は「士気が上がっている。少人数だからこそ、一人ひとりの全力プレーが何より大切。勝ち進みたい」と意気込む。

連合チーム「他校がヒントに」

 離島の多くの野球部にとっては、毎年が部員不足とのたたかいだ。

 長崎県の離島、対馬の北部にある上対馬。部員は1、2年生各3人と女子マネジャー2人の計8人。長崎大会には、2021年からさまざまな組み合わせの連合チームで出場してきた。今年は本土側の佐世保西、佐世保商、平戸の3校との連合チームで出場する。

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ノックの前にはマウンドに全員が集まって円陣を組む。「かっこよく捕って」「ステップ踏んで」とその日の目標を声に出す=2025年5月30日午後1時36分、長崎県対馬市上対馬町大浦、菅野みゆき撮影

 23年秋の県大会では対馬、壱岐商との連合チームでベスト8に入った。離島で少人数という困難を抱えながらの好成績が評価され、24年の選抜高校野球大会21世紀枠に県高校野球連盟から推薦されたこともある。

 連合チームの選手間ではLINEでグループを作って、交流をしているが、実際に合同練習できる機会は1回のみ。島から5時間近くかけてフェリーで博多港に向かい、部長らが運転するレンタカーで1時間半以上かけて長崎県佐世保市へ向かう。宿泊費もかかり、負担は大きい。

 犬束奏瑛さん(2年)は「費用がかかっても、両親は応援してくれる。がんばらなければという気持ちになる」と話す。

 合同練習の難しさや意思疎通の悩みは確かにある。でも、主将の糸瀬稔さん(2年)の表情は明るい。「連合だと不利なことばかりと思われるかもしれないけれど、他校のトレーニングを採り入れられるし、色々な考え方に接することもできる」

 九州では、福岡2、長崎3、熊本3、大分1、宮崎1、鹿児島3のあわせて13の連合チームが今夏の舞台に立つ。

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