自殺未遂を経験した男女6人の絵画展「絵とビジョンの力 自死からの生還『命の叫び』6人展」が、東京・日本橋で開かれています。主催者は「どの絵もすさまじくパワフル。いま苦しんでいる人に、死ななくていいんだよ、絵は生きる力になるよと伝えたい」と話します。絵に救われた出展者の物語を伝えます。

 八代佐智子さん(40)は13歳の夏、食べることをやめて命を絶とうとした。2週間絶食して体重が25キロを切った日、病院に運ばれた。

 理由は身近な人からの暴力だった、という。

 ただただ怖く、悔しかった。暴力は年々ひどくなり、このまま成長するのが怖かった。図書館で成分表が書かれた本を探し、食べ物のカロリーを丸暗記した。

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 ごはん1杯は150キロカロリー。

 成人女性が1日に最低限必要なのは1400~2千キロカロリー。

 計算し、食べる量を少しずつ減らした。成長を止め、死んでしまいたかった。

10年以上続いた摂食障害

 病院に入院して拒食は落ち着いたが、今度は過食の症状が始まった。病院食では足りず、生ゴミ入れを見つけて残飯をあさった。

 1年後に退院してからも、過食はおさえられなかった。学校から帰宅すると、食べ物を片っ端から食べ尽くし、バケツに吐いてトイレに流した。頭ではやめたい。なのに食べてしまう。食パンを大量に置いておくようになった。

 家を出て全寮制の高校に進むと、症状が少し落ち着いた。服飾を専攻し、先生にデザイン画を褒められた。絵は、描いている間はつらいことを忘れられる「処方箋(せん)」。こんなにかっこよく描ける私はすごい、と思えた。

 付属の専門学校に進み、卒業後はイギリスに留学。たまに過食と嘔吐(おうと)をしたが、うまく隠してやり過ごせた。

 だが働き始めると、強い症状がぶり返した。

 ストレスや不安、怒りを抱くたび、過食と嘔吐を繰り返してしまう。死のうと思った13歳の夏が、形を変えて続いている。一生ちゃんと生きられないんだと絶望した。

回復のきっかけとなった出会い

 泥沼から引き上げてくれたのは25歳の頃、ネットで見つけたアートセラピーとの出会いだった。

 絵は言葉以上に、描く人の内面を映し出す。絵を心理学的に読み解くことでカウンセリングをするアートセラピストの養成スクール「オーロラ」を訪れたその日、代表の加藤るり子さん(76)に言われた。

 「まずはカウンセリングをしましょう」

 それから何時間、語り続けただろう。あの日の暴力。苦しかった日々。過去を吐露することで、幼い頃からこびりついた自責の念が徐々にはがれていくのを感じた。

 月に2回ほど、養成講座に通った。絵を描くことで自分の弱い部分と向き合わざるをえない時間は、正直しんどかった。

 黒いクレヨンで目と口がない女性を雑に描いていたら、加藤さんに「自分を大切にね」と声をかけられた。心の中を見透かされているようで緊張したが、そんな自分を受け止め、成長したいと前向きな気持ちを持って通ううち、少しずつ黒以外の色も使って描けるようになった。高校時代に自信をくれた絵は、一番つらい時期も感情のはけ口になってくれた。

 今は摂食障害を克服し、アーティストとして活動している。結婚し、4歳の息子と過ごす。

不安や空しさを絵にぶつける

 今年、オーロラの設立35周年を記念した展覧会に出展してみないか、と加藤さんに声をかけられた。出展作の一つは、どん底だった15年前に描いた「不安の海」。画面の下半分に広がる黒い海を、女性が上からじっとのぞく。当時は無心で描いたが、何かにおぼれそうだった不安定な自分に「どうやって生きていくの?」と問いかけているように感じる。

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「不安の海」 八代佐智子さん=オーロラ提供

 同じ頃に描いた「陳列」は…

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