リシャン・ツェゲイ。後ろの貼り紙には、各国の言葉で「ようこそ」と書いてある=2024年10月、英南東部カンタベリー、藤原学思撮影

現場へ! 移民・難民 揺れる英国(1)

 英国が静かに、それでいて確かに揺れている。国民の生活が苦しくなるなか、怒りの矛先が移民や難民申請者に向かう。政治への不信感が募り、政治家たちは「解決策」を見いだすことに奔走する。そのひずみを、追う。

 ある女性の半生から、この連載を始めたい。

 リシャン・ツェゲイ、現在27歳。独裁体制が30年以上も続くアフリカ北東部のエリトリアで生まれ、3歳で西隣のスーダンに移った。

 滞在許可のないスーダンでは隠れながら暮らした。外出する機会も、教育を受ける機会もなく、「いつエリトリアに送還されるかと、常に恐怖でおびえていた」。

 夢があった。医師になること。米国の医療ドラマを見て、憧れが募っていった。

誰にも言わず、たった1人で

 ただただ願った。「自由に生きたい」。2014年の終わりごろ、リシャンは家を出た。誰にも言わず、たった1人。16歳だった。

 リビアから地中海を渡り、イタリアへ。さらにフランスを縦断し、トラックの荷台に乗って英国にたどり着いた。スーダンを出てから、1年ほどかかった。

 「英国をめざしたのは、英語が国際言語だからです」

 当時は「欧州難民危機」のまっただなか。英国は15年に3万9千人ほどの難民申請を受け付けた。当時は現在ほど受け入れ能力が逼迫(ひっぱく)しておらず、リシャンはすぐに里親に預けられた。「本当の家族のように扱ってもらえた」

 英国で進学するには学位認定…

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