「生きてあなたにこの手紙を渡せるだろうか」
親友は、そう書き残して亡くなった。雪山で遭難し、閉じ込められた洞窟の中で力尽きた。19歳だった。
手紙を受け取った20歳の若者は、心に深い傷を負った。親友を失ったことだけが理由ではない。本当は自分も同じ洞窟にいるはずだった。苦しむ親友のそばにいられるはずだった。
若者は自分の心の傷と向き合うために、使い慣れていないカメラを手に取った。それから7年かけてドキュメンタリー映画を作った。事故を巡る記録でありながら、大切な人を喪失した自身が回復する過程が映されている。
監督は台湾のルオ・イシャン。タイトルは「雪解けのあと」。
遭難事故があったのは2017年3月。アジアの国々を貧乏旅行していた親友のチュンとその恋人が、ネパールの山岳地帯で季節外れの大雪に見舞われて遭難した。2人は40日以上、洞窟に閉じ込められた。
雪が解けてからようやく発見される3日前に、チュンは亡くなった。恋人は救助されたが、体重が30キロほど減っていた。
本来はイシャンもネパールで合流して一緒に山を歩く予定だった。しかし道中のインドで体調を崩した。電波の届きにくい高山地帯にいる2人となかなか連絡がとれなかったこともあり、ひとり台湾に戻った。
その後、訃報(ふほう)に接した。やがてチュンが亡くなる前に洞窟の中で書いた、自分宛ての手紙を受け取った。
「だから愛して。約束してくれる?」
「あなたともう一度話したい…