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美術家のアンゼルム・キーファーさん

 現在の美術界を代表する一人、ドイツ出身のアンゼルム・キーファーさんが日本では約30年ぶりとなる大規模個展を6月22日まで、京都・二条城で開いている。ドイツ史や西洋文明、神話を踏まえた重厚な表現を展開してきた美術家が、戦後80年に古都で問うものは何だろうか。

 二の丸御殿の江戸期の建築「台所」の薄暗い空間に入ると、石や砂らしきものが貼り付き、大地をそのまま写し取ったような幅10メートル近い大画面に圧倒される。金や深い緑の絵の具が塗りたくられている。今回のために制作された「オクタビオ・パスのために」の存在感は、頭上を走る黒く太いはりの数々にも拮抗(きっこう)する。

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アンゼルム・キーファー「オクタビオ・パスのために」(2024年)の展示

 わらや衣服まで画面に貼り込んだ、重厚な作風で知られるキーファーさんらしい一点だ。金や緑を使ってきた近年の作品群と、二条城にあるような金碧(きんぺき)障壁画との類縁性も一つのきっかけに、大作中心に絵画、彫刻33点を集めた今回の大個展が実現したという。

 画期的ともいえる個展の記者会見で本人はしかし、ゲーテの「形作れ! 芸術家よ! 語るな!」をひき、作品については多くを語ろうとしない。それでも自身が1945年生まれであることは、口にした。同年3月8日、ドイツ南部の実家が爆撃された日に生まれ、戦争の傷痕が残る社会で育っている。

 そう今展は、80歳になった…

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