連載コラム「長考一番」 本社コラムニスト・山中季広
江戸風鈴や江戸扇子の工房に伝統が息づく東京都江戸川区。大小の河川が区内を流れ、親水公園も多い。涼やかな印象のある区だが、さすがに近年は熱中症による救急搬送が増えてきた。
昨夏は7、8月に区民284人が医療機関へ運ばれた。うち6割が高齢者だった。
何ごとも節約を心がける高齢者にはエアコンのつけっ放しを嫌う傾向がある。そこで区は高齢世帯に限って冷房費を補助する試みを始めた。
ナットグラフ このコラムは……
何かと慌ただしい毎日、ニュースの消費サイクルも分単位に。そんな時代だからこそ、本社コラムニストの山中季広編集委員が、あえて数百年、数千年の長い時間軸で過去と現代を見つめ、迫り来る未来を考えます。
午前11時から午後4時までエアコンを回した場合の電気代を試算し、2カ月で7千円と出た。対象は75歳以上の住民がいる約7万世帯。国の電気代軽減分に上積みする約5億円が区議会で認められた。
「区民の皆さんを熱中症から守るための月3500円です。夏の盛りは気兼ねなく冷房を」と区福祉部の担当者。
列島各地で記録的な「猛暑日」が続く昨今、試みる価値のある施策と言えるだろう。
私が子どものころ「猛暑日」という用語はなかった。「夏日」「真夏日」に加えて気象庁が予報に導入したのは2007年からだ。
むしろ小学生のころ盛んに聞いたのは「冷夏」である。教室で音読した〈寒さの夏はオロオロ歩き〉という宮沢賢治の詩の一節は冷害を描いたものと教わった。中学生になると、「氷河期が来る」「冷えていく地球」といった題の本を好んで読んだ。
SNSや動画サイトを飛び交う偽情報など存在しなかったあの時代、「地球寒冷化」説とは何だったのだろう。
「偽情報でもデマでもありま…