高校野球にそれほど詳しくなくても、「金農(かなのう)旋風」といえば、「あの年の秋田のチームのことだ」と分かる人が多いだろう。
2018年の第100回全国高校野球選手権記念大会。劇的な勝利を重ねて準優勝した金足農の活躍は、社会現象になった。
破った相手が全国区の強豪ぞろいだ。
鹿児島実、大垣日大(岐阜)、横浜(南神奈川)、近江(滋賀)、日大三(西東京)の5校すべてが、春か夏の甲子園大会で決勝を経験している。
横浜との3回戦は八回に高橋佑輔の逆転3ランが飛び出し、翌日の準々決勝は近江を相手に九回、斎藤璃玖の2ランスクイズで逆転サヨナラ勝ち。
漫画でもなかなかないドラマチックな勝利から中1日の準決勝は、エース吉田輝星(こうせい)(現オリックス)が終盤のピンチをしのぎ1点差で日大三を破った。
第1回の秋田中(現秋田)が準優勝してから、東北勢が何度もはね返されてきた決勝の壁は厚く、大阪桐蔭(北大阪)の春夏連覇で幕を閉じたが、観客の多くは関西から遠く離れた秋田のチームに声援を送った。
雪国にある県立の農業高校というだけが、応援したくなる理由ではなかった。
秋田大会から甲子園の決勝まで3年生9人の不動のメンバーで戦った。文字通りの9人野球が王者に挑む姿が、見る人たちの心を打った。
昨夏の甲子園。吉田の弟・大輝がエースのチームがあの夏以来の出場を果たした。初戦で敗れたものの、九回に4点を返す粘りを見せて甲子園を沸かせた。