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事務所に置いた自作の本に目を落とす野口善国弁護士=神戸市、大滝哲彰撮影
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 この世に2冊しかない本がある。「野口家原爆の記録」という、手作りの本だ。書いたのは野口善国弁護士(79)=兵庫県弁護士会。神戸連続児童殺傷事件など多くの少年事件を弁護してきたことで知られ、一方で、原爆症に苦しむ人たちにも寄り添う。原点には、父の願いがあった。

 広島への原爆投下から80年となった6日。野口弁護士は亡き親族を思い、今年も自作の「本」を開いた。

 今から29年前、1996年に完成させた。全約40ページ。冒頭の手書きの原稿はこう始まる。「昨年六月、父が亡くなりました。私どもの代々の墓は松山にありました」

 父が逝ったのは95年6月。寡黙な人で、銀行員として家庭をかえりみずに働いた。

骨からたどった父と広島のつながり

 晩年は認知症を患った。死の半年ほど前、神戸市の自宅で阪神・淡路大震災を経験した。テレビに映った火災の映像を見た父が、ふと言った。

 「新型爆弾が落とされた」

 父の死後、親族の墓を神戸に…

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