朝日新聞社と日本高校野球連盟は、主催する第107回全国高校野球選手権大会(8月5日開幕)における主な暑さ対策、健康対策を日本高野連のホームページ、朝日新聞社のコーポレートサイトで紹介している。大会に特別協力している阪神甲子園球場の取り組みも紹介する。
107回大会からの新規の取り組み
【全体】
●2部制拡大、夕方開幕
暑さが厳しい時間帯のプレーや観戦を避けるため106回大会では第1日~第3日の3日間のみで行った午前と夕方の2部制を、107回大会では第1日~第6日の6日間に拡大します。また昨年は1日3試合日のみの実施でしたが、今夏は1日4試合日(第2、3、5、6日)でも2部制を行います。
選手の熱中症疑いは各代表校の大会初戦で起きやすい傾向が出ており(106回大会では試合中発症の7割以上が初戦)、大会序盤をなるべく2部制として負担軽減を図ります。
また第1日(8月5日)は夕方の部(1試合)のみとし、開会式を16時から、第1試合を17時半から行います。開会式から試合までの待ち時間が長くなるなどの負担を減らすためです。
【チーム】
●試合前ノックを選択制に
負担軽減の一環で107回大会から試合前の守備練習(ノック)を行うか、行わないかをチームが選択できるようにします。ノック時間も今大会から2分短縮して5分とします。
【審判委員】
●白シューズ、白帽子を着用(一部新規)
審判委員のシューズは黒が主でしたが、106回大会から塁審のシューズを白としました。107回大会からは球審も白シューズをはき、球審、塁審とも紺だった帽子も白となります。なお選手のスパイクについては2020年から黒に加えて白も認められています。
●体表温度などを測定
攻守交替がなく試合中、常にグラウンドに立ち続ける審判委員の体表温度と心拍数、運動量(運動強度)を測定します。許諾を得た審判委員に計測器を装着してもらい、データを収集する予定です。
気温や暑さ指数(WBGT)、本人の自覚症状と照らしあわせ、暑熱下で運動量が多い状態が継続した場合など、どのようなときに体温が上がりやすいのか、あるいは下がりにくくなるのかなどの傾向を分析し、今後の全国選手権大会や都道府県の地方大会において審判委員や選手の熱中症予防に生かしていきます。
調査、分析は「大阪大学大学院医学系研究科 健康スポーツ科学講座 スポーツ医学教室」の指導、助言のもとに行います。同教室ではジュニアのテニス大会で選手の体表温モニターをすでに実施しており、重度の熱中症予防のためのデータ収集、分析を行っています。
継続の取り組み
【全体】
●救護室の設置
地元病院の協力を得て、大会中は球場敷地内に救護室を設置し、内科医2人と看護師2人が体調不良者らの診療にあたっています。また選手らのけがや体調不良に対応するため、球場の「バックネット裏本部」にも整形外科医1人、看護師1人が常駐しています。
●暑さ指数、気温の測定
試合開始前の本塁付近、外野芝上のほか、一、三塁側アルプス席など観客席の複数地点で定期的に暑さ指数(WBGT)、気温を測定し、必要に応じて当該試合の審判委員やチーム付き本部委員らに注意喚起を行っています。
●入場券を全席指定、ネットでの前売りに
当日券を求めるために発生していた球場周辺の行列を解消するため、104回大会から一般向けの入場券を原則ネット販売による全席指定・前売りとしました。
●場内での注意喚起
アナウンス、オーロラビジョンで熱中症予防のための水分補給や休憩を呼びかけています。また熱中症警戒アラート発令時はアナウンスや表示回数を増やしています。
【チーム】
●理学療法士による健康管理
一般社団法人「アスリートケア」所属の理学療法士12人前後が連日、球場に詰め、選手の体調管理を担当しています。
試合前に熱中症の既往症の有無や睡眠、食事、体調不良について選手にアンケートを行ったうえで試合中、試合後のケアにあたっています。熱中症様の症状が選手に出た場合は患部の冷却やストレッチング、飲料の摂取指導、医師による診察の要請などを行います。
試合後にはコンディション維持、故障予防のため、約20分をかけて選手のクーリングダウンを指導しています。
●クーリングタイムの実施
5回終了後、暑さ対策に特化した時間を設けています。選手は全員、ベンチ裏の冷房がきいたクーリングスペースに移動し、理学療法士の指導のもと、サーモグラフィーによる体温測定、着替え、手のひらや頸部などの冷却、アイススラリーやスポーツドリンク、経口補水液の摂取などを行います。アンダーシャツだけでなく、ユニホームも着替えられるよう106回大会から背番号を2枚配布しています。
105回大会から導入し、当初は10分間でしたが、短縮しても効果は見込めるため107回大会から8分間とします。
●飲料の用意
選手用のスポーツ飲料、アイススラリー、経口補水液をベンチ裏に常備しています。アイススラリーはスポーツ飲料などをシャーベット状に凍らせたもので、飲むことで深部体温を下げる効果があります。理学療法士が試合前のほか、試合中にも2~3回程度、摂取を促しています。
●補食を提供
105回大会では第1、2試合に熱中症の症状の発生が目立つ傾向があったため、106回大会から球場到着後に栄養補給できるよう補食を導入しました。100%果汁、ゼリータイプの栄養食品を全試合で用意し、第1試合にはおにぎりとパン、第2試合はパンを提供しました。
106回大会終了後に実施した代表校へのアンケートでは、補食提供について好評であり、「おにぎりを増やして欲しい」、「すべての試合で同じものがあるとありがたい」という声が寄せられるなどしたため、107回大会ではすべての試合を対象に、おにぎり、パン、ゼリータイプの栄養食品、100%果汁を提供します。
●手のひら冷却の推奨
理学療法士は、冷えたペットボトルを握ったり、手のひらで転がしたりする「手のひら冷却」を選手に推奨しています。手のひら冷却にも深部体温を下げる効果があります。
●ベンチ入り選手の拡大
105回大会からそれまで18人だったベンチ入り選手を20人に拡大しました。投球数制限の導入により、多くの投手をベンチ入りさせる必要性が増していること、障害予防や暑さ対策のため試合に出ている9人以外の選手の役割が増えていることを考慮しました。
【学校応援団】
●臨時休憩所の設置
主に学校応援団の生徒向けに一、三塁側アルプス席そばに空調がきいた応援団臨時休憩所を設けています。休憩所には飲料なども用意しています。
●日よけテント、ダクトクーラーの設置
待機する学校応援団のために一、三塁アルプス席の入場門前に日よけテントと扇風機、ミスト扇風機を設置しています。また107回大会から学校応援団の生徒向けに新たにダクトクーラーを導入します。
【参考①】
●阪神甲子園球場の近年の主な暑さ対策
2019年 場内通路にエアコン28台を増設し、各入場門に壁付け扇風機12台を設置。両アルプス席床面に遮熱塗装を施し、場内通路窓に遮熱シートを貼付、内野デッキゲートにミスト噴霧器を設置しました。
20年 駅前広場に日除け材を設置しました。
21年 場内通路に天吊りファン10台を設置しました。
24年 両ベンチ内及びベンチ裏のエアコンを増設、両アルプス席遮熱塗装面を拡張しました。
【参考②】
●地方大会での取り組み
各都道府県高野連と朝日新聞社が主催する地方大会でも暑さ対策を実施しています。三重、富山の両大会は日中の暑さを避ける「2部制」を採り入れました。1球場あたりの1日の試合数を減らしたり、試合開始時間を繰り上げたり、選手にアイススラリーを配布したりする大会もあります。五回終了時にクーリングタイムや休憩時間を設けることも定着してきています。
【ご参考③】
●熱中症予防サイト「深部体温を下げて 熱中症を防ごう!!」開設とポスター配布
日本高野連と朝日新聞社は、全国選手権大会だけでなく、普段の部活動の現場から熱中症を少しでも減らし、重症化を防ぐためのポイントをまとめ、日本高野連のHP内に特設サイト「深部体温を下げて 熱中症を防ごう!!」(https://www.jhbf.or.jp/heatillness/)を5月下旬に開設しました。要点をまとめたポスターを作成し、硬式・軟式の全加盟校などに配布しました。
《主な内容》
特別な設備や高額な費用がなくても、普段の学校での部活動でできそうな対策を中心にまとめました。また野球という競技の特性にあわせた注意点を例示しました。
深部体温を下げることが熱中症予防のポイントであることを強調し、その主な方法としてアイススラリーの摂取(代替法含む)と手のひら冷却を推奨しています。また症状の重さ別の対処法もまとめ、学校でもできる応急処置「ローテーションアイスタオル法」(氷水に浸したタオルを全身にかける冷却法)も紹介しています。