第97回選抜高校野球大会の出場32校を決める選考委員会が24日、大阪市の毎日新聞大阪本社で開かれる。21世紀枠で選ばれるのは2校。全国9地区から選出された候補9校の横顔を紹介する。
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【釧路江南=北海道】
北海道東部の釧路市は5月に桜が咲くほどの寒さだ。積雪と凍土の影響で、11月から約5カ月間はグラウンドで通常の練習ができない。農業用ビニールハウスを活用したり、雪の上で打撃や守備練習をしたり、部員22人で工夫して乗り越えてきた。
チームはエースの佐藤勝輝と捕手楓川(もみじかわ)瑛太のバッテリーが中心。2勝を挙げた秋季道大会では実力校の帯広大谷、遠軽をいずれも1点差で破った。準々決勝は甲子園で準優勝経験のある北海に敗れたが、0―1と終盤まで接戦を演じた。
通学路の除雪や清掃活動を行い、地域のお祭りでは雪像づくりのボランティアにはげむ。地元の小学生を招いて野球教室を開き、普及活動もしている。
2006年と07年にも21世紀枠の候補校に選ばれたが落選した。「三度目の正直」となるか。
【久慈=東北・岩手】
学校があるのは、ウニやアワビの漁場がある岩手県沿岸北部の久慈市。「じぇじぇじぇ」のフレーズが話題になったNHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年)のロケ地として有名。
1943年創立の県立高で、生徒の半数が国公立大学に進学する県内有数の進学校。校是「進取貫道」の精神のもと文武両道を重んじる。51年創部の野球部は79年に夏の全国選手権大会に初出場を果たした。近年は安定して上位に進出し、初の選抜切符を待つ。
部員35人は全員地元出身で、幼いころからともに白球を追ってきた。バントやエンドランなどを絡めた多彩な攻撃が持ち味。昨秋の県大会では、専大北上との3位決定戦を延長十一回タイブレークで制し、2年連続の東北大会へ。1回戦で学法石川(福島)を7―2で破った。
【横浜清陵=関東・神奈川】
神奈川県は全国で唯一、21世紀枠の地区候補になったことがない「空白県」だった。そんな中、初めて候補に挙がった。
統合を経て、2017年に開校した県立校。他部とグラウンドを共有する。21年以降は秋、春、夏1回ずつ県8強入りと、強豪校がひしめく神奈川で上位を狙えるチームに成長した。
右腕・内藤大雅、左腕・西田豪の2本柱で守備からリズムを作る。昨秋の県大会準々決勝で東海大相模に0―5で敗れたが、直前の4回戦までは1試合平均1失点以下と安定した戦いぶりだった。
部活動研究の教授を招き、「部活動とは何か」と指導者と生徒がそろって考えた。「可能な限り生徒の『自治』によって行われることが望ましい」という共通認識として持つことで、選手ミーティングを定期的に行い、自分たちで練習メニューを考えることを重視している。
【名古屋たちばな=東海・愛知】
2024年4月に「愛産大工」から「名古屋たちばな」へ校名を変更すると、いきなり快進撃を見せた。
昨夏の愛知大会は3回戦で享栄を2―1、4回戦で大府を4―3、5回戦で選抜代表の愛工大名電を2―0と、甲子園経験校を次々と破って8強入り。秋は県3位で東海大会に出場。新チームでも力を証明した。
グラウンドが河川敷にあり、集中豪雨で浸水したり水没したりすることも多い。流木やゴミなどが散乱して復旧に時間がかかるなか、保護者や卒業生の協力を得て清掃し、練習環境を維持している。
企業のカンボジアでの学校建設プロジェクトに協力している。文化祭などで部員が全校生徒に呼びかけ、恵まれない環境で暮らすカンボジアの子どもたちに贈る文房具やリコーダー、服などの支援物資を回収する活動を17年にわたって続けている。
【小松工=北信越・石川】
1964年、2000年と2度の全国選手権を経験しているが、選抜大会には出たことがない。
昨秋は低反発バットの影響を感じさせない強打で勝ち上がった。打線の中心を担う主将の3番東大輝は2本塁打をマーク。チーム打率は3割台で、県大会を準優勝。北信越大会2回戦では新潟王者・新潟明訓に7―0の7回コールド勝ちで4強入りを決めた。
24年の元日に起こった能登半島地震でもボランティア活動に励み、昨年9月の能登半島豪雨では、被害を受けた輪島高などの復旧作業に協力している。
卒業生の多くが地元の中学・高校や学童チームの指導者、また審判として活躍している。毎年2回、学童チームを対象にした野球教室を実施するなど、地元に根ざした活動を大切にしている。
【山城=近畿・京都】
創立118年を誇る府内屈指の進学校。卒業生にプロ野球阪神タイガース元監督の吉田義男さんや、サッカー元日本代表の釜本邦茂さんらがいる。
金閣寺をはじめ、寺院がひしめく京都市北区にあり、校内には平安時代の貴族邸宅跡の史跡がある。2023年度は117人が国公立大に現役合格した。
昨秋の府大会では、42年ぶりに準決勝に進んだ。確実に好機をものにする戦術を各選手が意識している。
攻守で中心となるのが、主将で捕手の高尾輝。二塁送球タイムが2秒を切る強肩で、様々なタイプがそろう投手陣を巧みにリードする。昨秋の公式戦で、チームトップの打率4割5分5厘をマークした。
創部110年。夏の地方大会に第1回大会から出場を続ける「皆勤校」だ。甲子園には春夏通じて4度出場も、未勝利。1961年夏を最後に遠ざかっている。
【大田=中国・島根】
島根県の中央部、日本海に面する大田(おおだ)市にある1921年創立の県立校。地元では「ダイコウ」の愛称で親しまれる。
市内の有力選手が県内外の実力校に進学し、大田は87年選抜大会を最後に甲子園から遠ざかっている。部員数の減少にも悩んでいるのが現状だ。
現チームは選手11人とマネジャー4人でスタート。生徒の3~4割が国公立大に進む進学校のため、平日の練習時間は2時間半ほど。練習試合でとにかく実戦経験を積んだ。約2カ月半、県内外の19校と31回の練習試合を11人でやり抜いた。
豊富な経験が、昨秋実った。エース右腕の生越類人を中心に県大会で4強入り。24年ぶりに出場した中国大会では、1回戦で境(鳥取)に7回コールド勝ちし、同大会で38年ぶりの勝利を挙げた。
限られた時間のなかで野球普及活動にも参加し、地元の野球熱を支えている。
【高松東=四国・香川】
平日は他部とグラウンドを共有し、内野だけのスペースで練習している。選手自身が課題を設定し、内容を指導者と相談しながら決定する。
目標設定も同じで、体重5キロアップ、月に2万スイング、投手は球速10キロアップなど、具体的な数値目標を掲げる。朝練後と練習後にそれぞれ1合のご飯を食べ、さらに食事講習も取り入れてパワーアップを図っている。
前身は1908年に女学校として創設され、69年に現在の校名になった。野球部は50年。昨夏の第106回全国高校野球選手権香川大会では、45年ぶりに4強入りした。
エース森井は身長179センチからキレのある最速143キロの直球を投げ込み、打っても4番として勝負強い。秋季大会では29年ぶりに準決勝まで勝ち進んだ。
近隣の小学生と野球交流を行い、川の清掃ボランティアに参加するなど、地域との関わりを大切にする。
【壱岐=九州・長崎】
合言葉は「壱岐から甲子園!」。
マネジャーを含めた部員25人全員が、壱岐島出身。2022年には、高校野球の未来を考える協議会「200年構想」のイベントとして「キッズベースボールフェスタin壱岐」を実施したこともあり、地元中学生の入学が増え強化につながった。
昨秋の県大会では準々決勝で創成館、準決勝では大崎と、いずれも甲子園経験のある両校を破って決勝進出した。長崎県の離島の学校として初めて出場した九州大会でも8強と奮闘した。
島外への遠征は、フェリーと車を駆使しなければならず、1回の遠征で約30万円、年間約20回の遠征で約600万円以上の負担がかかる。公式戦や練習試合に島外へ出る際の時間や経済的な負担は小さくない。
島外へ進学する子どもが多く、部員の確保に苦労する状況での好成績に、島民からは「100年に1度の奇跡」と言われている。