レッツ・スタディー!経済編㉟ M&Aとは何ぞや?
三田紀房さん作の投資漫画「インベスターZ」に登場するキャラクターたちと、NMB48の安部若菜さん(24)、松岡さくらさん(22)、吉見純音さん(17)が一緒に経済を学ぶ連載。今回のテーマは「企業のM&A(合併・買収)」です。
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私たち「経済編」の3人でユニットをつくりませんか?(松岡さくらさん)
まつおか・さくら 2003年、大阪府生まれ。21年、NMB48に加入。愛称さくら、さくぱん。
松岡さくら「あのぉ。私たち、『経済編』を担当する3人でユニットをつくりませんか?」
安部若菜「どうしたの。いきなり」
吉見純音「どういうことですか?」
神代圭介(「道塾学園」投資部主将)「ちょっと待って、ユニットって何?」
松岡「NMB48には約50人のメンバーがいて、所属するチーム単位で劇場公演などに取り組んでいるんですけれど」
財前孝史(投資部員)「ふむふむ」
松岡「それとは別に、少人数のメンバー同士で組んで活動するケースがあるんです」
神代「それがユニットか」
安部「ダンスが得意なメンバーでつくる『だんさぶる!』、バラエティーに強い『わてら』、キュートさを追求する『めるみみ』。NMB48には公式・非公式のグループ内ユニットが実は色々あるんですよ」
吉見「あと、わかぽんさんの小説がきっかけで生まれた『TETRA』も!」
松岡「私たち3人、お互いの強みを持ち寄って、何か新しいことをやりましょうよ」
宮宇地俊岳(追手門学院大教授)「まるで企業のM&A(合併・買収)みたいですね」
アイドルは一人ひとりが独立した会社のような存在(安部若菜さん)
あべ・わかな 2001年、大阪府生まれ。18年、NMB48に加入。愛称わかぽん。
安部「確かに! アイドルはファンの方々を顧客とし、自分で自分の経営戦略を決め、実行していくという意味では、一人ひとりが独立した会社みたいなものですから」
吉見「となると、ユニット結成は一種の『経営統合』ですかね?」
宮宇地「ある分野に強みをもつアイドルさん同士が集まって活動し、シナジー(相乗)効果やブランド価値の向上効果を得る――まさにM&Aを思わせますね」
松岡「私たちが協力しあえば、1+1+1が3じゃなくて10になるような気がするんです」
吉見「いいですね! ちなみに、どんなコンセプトで活動するんですか?」
安部「3人とも勉強は得意な方だし、そろって資格取得に挑む企画とかできそうだよね。ユニット名は『Genius』でどう?」
松岡「……」
安部「えっ、ダメ?」
吉見「3人の共通点は『何事も自分の目で確かめないと気が済まない』ところだと思うんです。全国を回り、各地の農産品や催しなどを体験型取材でリポートする。ユニット名は『Seeing is believing』(百聞は一見にしかず)なんかどうでしょうか」
安部「あっ、それも素敵!」
松岡「私のやりたいこととは少し違う……」
安部・吉見「あらっ」
宮宇地「おっと、ここがポイントです。企業の合併や経営統合に際しては、新会社の事業目的や戦略についてお互いにしっかり目線を合わせておくことが大事ですから」
安部「ここを乗り越えられないと合併協議が破談になっちゃうわけですね」
宮宇地「どの会社にもそれぞれの歴史があり、大事にしてきたやり方があります。何を得るための合併なのかが不明確だと、シナジーではなくアナジー(負の相乗効果)が生じてしまうこともあります」
文化も歴史も違う会社同士が合流…何が起こる?(吉見純音さん)
よしみ・あやね 2007年、兵庫県生まれ。22年、NMB48加入。愛称よしみん。
吉見「そういえば、母が以前、二つの企業が合併してできた会社に勤めていたのですが、お互いに文化もしきたりも異なり、お客さんからの問い合わせも多く、合併直後は大混乱だったみたいです。でも、お互いの違いを乗り越える強い何かがあればいいんですよね」
松岡「なるほど、合併って『結婚』に近いかもですね。別々の環境で育ってきた2人が一緒になるわけだから、お互いの違いを尊重し、時に譲り合う精神が大切というか」
宮宇地「そうですね。それと同時に、事業を共にすることでお互いの強みを伸ばし、弱みを補う構造になっていることが重要です」
吉見「どんな成功事例がありますか?」
宮宇地「海外企業ですが、例えばLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)はM&Aを活用し、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、ティファニーなどのブランドを抱えるラグジュアリー業界のコングロマリットに成長していますね」
吉見「それぞれの強み、つまりブランドを持ち寄ることで新しい価値が生まれるってことですね。日本史好きなさくらさんと、小説家のわかぽんさんが組んで、新感覚の歴史小説をプロデュースするのはどうでしょう? 私、宣伝隊長しますよ!」
安部「私はピアノが特技のよしみんと、顔芸が得意なさくらちゃんの競演を見たいな。よしみんの伴奏で、さくらちゃんがパントマイムを演じる舞台。面白そうじゃない?」
3人それぞれの才能のかけ算…それが「シナジー」(宮宇地教授)
神代「それぞれがもつ才能のかけ算って感じですね」
宮宇地「まさにシナジーだと思います。3人それぞれの個性も生きて、会社でいえば消費者、顧客にあたるファンの人たちも一層楽しめそうですね」
松岡「そ、そうですね……」
安部「ところで、さくらちゃん自身は何をしたいの? まずはそれよ!」
松岡「『経済編』の3人ですから、経済知識を生かしたユニットにしませんか」
財前「ああ、なるほど」
松岡「日々の生活で節約したりカットしたりできる支出を洗い出し、お金の上手なやりくりを考えて、生み出したお金でおいしいものを食べに行くってのがコンセプトです」
安部「へ?」
松岡「ユニット名は『経理部』でいきましょう」
安部「さくらちゃん、それはユニットとはいわないような気がするよ……」
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【解説】合併・買収・経営統合…それぞれにメリットとデメリット
追手門学院大学経営学部の宮宇地俊岳教授(副学長)が各回のキーワードとなる経済用語とその意味を解説します。
企業のM&A(合併・買収)が活発です。市場シェア拡大や多事業化をめざす企業結合のことですが、いくつかパターンがあります。
まずは「合併」。相手の会社の法人格を消滅させて自社に取り込む「吸収合併」と、複数の会社がともに法人格を消滅させて新会社を立ち上げる「新設合併」があります。
次に「買収」。議決権を伴った株式の取得を通じ、別の企業を法人格を消滅させずに傘下に収めるもので、「子会社化」と呼ばれることもあります。買収側は、株式を保有して企業を支配するだけの純粋持ち株会社であるケースもあります。
これら以外に、純粋持ち株会社を新設し、複数の企業がその傘下に入ることで、新たな企業グループをつくる方式を「経営統合」ということがあります。新・持ち株会社の下に、何社かの既存企業がぶら下がる場合、その既存企業同士の間には支配従属関係は生まれず、対等かつ独立性を維持したまま事業をすることも可能になります。
M&Aや経営統合のメリットとしては、①認知度やブランド価値の向上②シナジー効果(共同仕入れを通じたスケールメリットの享受など)の発揮③異なる分野・産業への短期間・低リスクでの進出――などがあります。
デメリットは、①企業文化の摩擦②経営システムの複雑化③商品やサービスの品質変化による顧客離れ、人材流出――などの可能性が挙げられます。
経営者は自社や相手企業の強…