梯稀華ちゃんが亡くなったアパートの前には事件後、ジュースやお菓子が供えられていた=2020年7月16日午前7時55分、東京都大田区、岩田恵実撮影

 5年前、東京都大田区のマンションで3歳の女児が飢餓と脱水症状で亡くなった。母親は育児放棄(ネグレクト)をしたとして、保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕・起訴され、有罪判決を受けたが、その後も虐待事件は絶えない。この事件の教訓はどう生かされているのか、関係者をたどった。

 JR蒲田駅近くのマンションの一室に、3歳だった梯稀華(かけはしのあ)さんは置き去りにされていた。2020年6月、母親の119番通報で稀華さんは病院に搬送されたが、まもなく死亡が確認された。死因は飢餓と高度の脱水症で、胃の中からは飢えて食べたのか紙が見つかったという。

 その後の捜査で、母親は交際相手がいる鹿児島県に行くため、稀華さんを自宅に8日間放置していたことが判明した。

 今年取材に応じた近くに住む70代男性は、生前、稀華さんが一人でいるのを夕方に見かけることが何度かあったという。「『お母さんは?』と声をかけても反応がなく、気づいたらいなくなるので近くに親がいると思っていた。あの子が亡くなったと知ってショックだった」

 なぜ、このような事件が起きたのか。どうすれば防ぐことができるのか。

母親は幼少期に虐待被害、専門家「トラウマの治療必要」

 稀華さんの母親の公判で、弁護側証人として出廷した西澤哲・山梨県立大特任教授(臨床心理学)は、命に関わるような深刻な虐待については「『虐待の連鎖』となっている場合がほとんど」と指摘する。

 事件の公判では、母親自身も幼少期に親から包丁で切られるなどの虐待を受けていたことが明らかになった。西澤さんは「自分が聞いてきた虐待のケースの中でも、5本の指に入るほど凄惨なものだった」と振り返る。

 虐待が連鎖しないためには、「自分の心のトラウマに向き合う精神的な治療が必要だ」と話す。虐待を受けた人に対して、定期的なカウンセリングをすることで無意識のトラウマを理解し、子育ての際に、トラウマにとらわれないようにしていく。ただ、こうした治療ができるところは「国内ではごくわずかしかないことが課題だ」と指摘する。

 こども家庭センターが定めた…

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