2020年7月の豪雨で被災し、運休が続いているJR肥薩線の八代―人吉間の復旧案が31日、国と県とJR九州でつくる検討会議で示され、最終合意した。最後まで議論が残っていた駅の存廃については、この区間の15駅のうち3駅を廃止することとなった。
廃止となるのは八代市の瀬戸石駅、芦北町の海路駅、球磨村の那良口駅。いずれの駅も利用者が被災前の平均で1日0~1人だった。
3駅の廃止について、地元の3首長とも「やむを得ない」という受け止めだ。もともと肥薩線そのものの存廃が焦点となり、JR九州も当初は鉄道での復旧に難色を示していた。そこで駅や線路などの「下部」を地元自治体で保有・管理し、「上部」の鉄道運行をJRが担う「上下分離方式」が提案され、乗客増を図る活性化策なども示されたことで、鉄道での復旧へ舵(かじ)が切られた。
八代市の中村博生市長は当初、「市内のすべての駅の存続を求める」と話していたが、瀬戸石駅の廃止方針が示されると、「断腸の思い」としつつ理解を示した。
瀬戸石駅の被災前(2019年度)の1日あたりの利用者は通学の1人。市によると、その1人もすでに地元を離れているという。20年の豪雨で駅舎ごと流され、今は資材置き場になっている。地元に説明した際も強い反対は出なかったという。
芦北町では、1日平均の利用者が0人の海路駅が廃止になる一方、2人の吉尾駅が残った。海路駅の周辺に住民はほとんどいない一方、吉尾駅近くには温泉があり、秘湯を好む観光客が訪れることから、「にぎわい創出の可能性がある」とされた。竹崎一成町長は「民間会社のJRあっての肥薩線。採算を考えればやむを得ない。残された駅の将来に対する期待に応えたい」と話した。
球磨村では、利用者1人の那良口駅が廃止となる。地域の中核にある一勝地駅と渡駅や、観光名所に近い球泉洞駅と違って、近くに住宅は少なく、利用増は見込めない。松谷浩一村長は「肥薩線復旧のためにはやむを得ない」。被災した渡駅周辺は、災害公営住宅などの施設整備が進む。新たなまちづくりにあわせて駅舎の位置をずらすよう求める声もある。松谷村長は「住民らとよく話し合っていきたい」と話す。
JR九州の担当者は「利用が極端に少ない駅を残しても、到着時間が遅くなり、かえって利用者減につながる恐れがある」として、駅の再編を歓迎する。松下琢磨常務は「鉄道の持続可能性がきちんと担保できた。国と県、自治体の取り組みに感謝を申し上げる」と述べた。
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肥薩線の復旧をめぐる動き
2020年7月 豪雨で八代―吉松間が不通に
22年3月 国・県・JRが検討会議を設置。JR九州が復旧費を235億円と発表
5月 国の補助などでJR九州の負担を25億円に抑えられるとの試算を公表
23年12月 八代―人吉間を先行して鉄道で復旧する方針案を提示
24年4月 鉄道での復旧案に県とJR九州が基本合意
25年3月 復旧方針案を最終合意