■連載「進化する薬の今」
久々に、家族4人が食卓にそろった。
元気になったら、夫と2人の子どもたちにご飯を作ったり、散歩をしたり、普通のことをやるんだ。そう決めていた。
2022年の夏。東京都の女性(43)は、血液がんの一種、悪性リンパ腫の治療が一段落し、退院した。抗がん剤が効かず、「切り札」として受けた免疫療法、CAR-T細胞療法のための入院が終わったところだった。
退院の日の夕食に選んだのは、自宅のホットプレートでの焼き肉。日常の尊さをかみしめた。
◇
悪性リンパ腫とわかったのは、21年のことだった。肩や首の痛みが続き、受診するようになった。
大学時代に学んでいた陶芸を、育児のかたわら再開。展覧会や教室を開いていた。痛みは創作の時の姿勢のせいではないかと思った。
だが、次第にのどが詰まる感じがして、首を絞められるような息苦しさを感じるようになった。顔にむくみも表れた。画像検査の結果、すぐに大学病院に行くよう言われた。
翌日、大学病院で左右の肺の間の「縦隔」に大きな腫瘍(しゅよう)ができている、と説明を受けた。血液の中のリンパ球ががん化する、悪性リンパ腫の一種だった。そのまま3カ月間の入院が決まった。
すぐに家に帰ると思っていたから、財布くらいしか持っていない。仕事は? 子どもたちは? 突然に日常が絶たれ、不安ばかりだった。
すぐに治療が始まった。診断された「原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫」は、80%くらいの人には抗がん剤がよく効くという説明を受けた。それを聞いて安心した。
だが、腫瘍は一時的には小さくなるものの、すぐに大きくなった。他のパターンの抗がん剤治療も試したが、悪化は止められなかった。せきが止まらず、声も出なくなってきた。検査結果に一喜一憂し、精神状態も悪くなった。
他に何の治療が残されているのか。絶望感が襲った。
「まだ死んだら困る」 浮かんだ子どもたちの顔
「まだ、CAR-T細胞療法…