入学式の季節になると、小さな駄菓子屋には、期待に胸を膨らませた新入生がやってくる。
福岡県朝倉市の「長野商店」。小学校のそばにある10畳ほどの店には、風船ガムやスナック菓子がずらり。
「おばちゃん」と慕われる長野恵子さん(87)は60年以上、何人もの新入生を迎え、巣立ちを見送ってきた。
あの子も、そのひとりだった。
「おばちゃん、元気にしとった?」
2022年ごろ、見覚えのある「お兄さん」の姿に長野さんはびっくりした。約30年ぶりの対面。懐かしくて、昔話に花が咲いた。
「ずっと来たいと思ってたばってん、寄られんやった……」
急に切り出された言葉に、驚いた。
「どうして?」
聞くと、申し訳なさそうにぽつりと言った。
「小学1年生の時、店のお菓子を盗んでしまって。来たいと思っても来れんやった……」
差し出した1万円札
おそらく10円ほどのお菓子…