(16日、第107回全国高校野球選手権大会3回戦 京都国際3-2尽誠学園)
32年前の夏、父が全国制覇を果たした甲子園。そのマウンドに立った。
京都国際の酒谷佳紀(さけたによしき)さん(3年)はこの日、先発を任された。「前日はとても緊張していたけど、チームのみんなが『お前なら大丈夫』と励ましてくれた」。182センチの長身から投げ下ろす最速146キロの直球を武器に、四回まで無失点と踏ん張ったが、五回に2点を失い降板。マウンドをエースの西村一毅(いっき)さん(3年)に託した。「初回からピンチを作ってしまい、球数が多くなった。納得のいく投球ではなかった」と悔しさをにじませた。
昨夏は右肩の肉離れでベンチ入りを逃し、優勝の瞬間をスタンドから見届けた。その時、マウンドにいたのは同級生の西村さんだった。「あの時は西村に負けを認めるしかなかった」。その悔しさを糧に、この1年は絶対的エースを追いかけ、成長を重ねてきた。
迎えた京都大会では2回戦、3回戦を完投。しかし、それ以降は出番がなく、「まだ自分が投げられる器ではなかった」と歯がゆさを抱きながら準備を続けてきた。
そんな酒谷さんを支えたのは父・敏(さとし)さん(49)だ。1993年夏、育英(兵庫)の投手として3回戦で甲子園に初先発し、全国優勝に貢献。息子もまた、同じ3回戦でデビューを果たした。試合前夜には「投げ急いだらいかん」と助言を受け、初回のマウンドでは深呼吸しながらその言葉を思い出したという。スタンドから見守った敏さんは「なんとか逆転してくれてほっとした。70点くらいですかね」と笑顔を見せた。
幼少期から阪神ファンで、甲子園は憧れの舞台だった。「ここで投げられたことが何より幸せ。次は冷静に、自分の役割を果たしたい」