北九州市の池田菜々香さん(22)=九州産業大大学院芸術研究科博士前期課程1年=が生のシラスを初めて食べたのは、学部生だった2024年の春。家族旅行で訪れた鎌倉でのことだ。
おいしいと感じただけではない。透明でキラキラしていて、柔らかくて。ゆでた白いシラスでは今まで気付くことのできなかった「命」を、丼の上の生シラスから感じた。
そこにあるはずなのに、見えない命――。池田さんは、シラスをきっかけに、地元・北九州市の歴史を思い出した。
その年の1月。市平和のまちミュージアムを訪れた池田さんは、かつて、地元に西日本最大級の兵器工場「小倉陸軍造兵廠(しょう)」があったことを知る。
造兵廠では、風船爆弾などの兵器が製造されていたこと。最盛期には学徒ら約4万人が動員されていたこと。造兵廠があったために、原爆投下の標的とされていたこと。
曽祖父が戦地で亡くなったと…