福岡県の道路事業をめぐる用地取得について、県は13日、用地補償の価格を当初は約431万円と地権者に提示していたにもかかわらず、最終的に5倍の約2166万円で買収していた事例があったことを公表した。地権者が難色を示したため、県は土地の評価を2度やり直し、増額させていた。県は「適切ではなかった」と認め、第三者の意見を聞きながら地権者側と再協議するという。
県が同日、会見を開き、経緯を説明した。県によると、買収したのは赤村にある山林計2505平方メートル。県道「行橋添田線」の一部区間を改良するために必要となり、県の出先機関である田川県土整備事務所が、地権者の男性(75)と協議を始めた。
県事務所は、昨年10月の最初の協議で、用地全体が山林であることを前提に、約431万円の補償額を提示した。男性からは「現地は全て山林ではないので、評価の見直しを」と求められた。補償額の算定は、用地補償会社(福岡市)に委託していた。
男性側の回答を受け、県は補償会社に再度の算定を指示した。再調査のなかで用地の半分ほどが山林を伐採した造成地であるとわかったため、造成費を加算できると判断。同年12月、約578万円に増やして男性に提示したが、再び拒否された。
県は3度目の算定で、掘削にかかる必要経費を再評価させ、当初の約5倍の約2166万円に増やした。男性の同意を得て今年4月に契約を締結し、6月に全額を支払ったという。
県の聞き取りに対し、当時の県事務所の担当者は「他の用地取得が順調に進んでいたため、早期に妥結させて工事を速やかに発注したかった」と説明しているという。
また協議のなかで、男性は「近隣の坪単価は2万~3万円だ」と発言。担当者は希望する単価だと受け止め、補償会社にも伝えたという。結果として用地の坪単価は、当初の提示額では約5685円だったが、最終的には約2万8千円と、男性が示した金額の範囲内まで引き上がっている。
県は「近隣の価格に比べて造成地の評価額が著しく高くなってしまったのは適切でなかった」と説明。一方、男性に忖度(そんたく)した可能性は否定した。
今後、不動産鑑定士ら第三者の意見を聞き、契約価格について男性と改めて協議するという。
男性は朝日新聞の取材に対し、「(当初示された431万円では)売りたくないと思った。(買収額は)高いと思っていないから、無理を言ったつもりはない」と話した。