Power, Money, Territory: How Trump Shook the World in 50 Days
トランプ大統領は、わずか50日という短期間で、第2次世界大戦の勝利から80年にわたり米国が丹念に築き上げてきた国際システムの基盤を、現代史における他のどの大統領よりも空洞化させた。
政策転換を正式に宣言することも、戦略的な根拠を示すこともしないまま、トランプ氏は米国をウクライナ戦争における敵対国側の支持に回らせ、民主主義国としての歩みを始めたばかりで不完全な国の国境を、より大きな力を持つ侵略国から守るという大義を放棄した。ロシアを侵略国と認定する国連決議をめぐり、トランプ氏は、ほぼ全ての伝統的な米国の同盟国と対立し、米政府に対してロシアと北朝鮮に同調するようためらうことなく命じて、反対票を投じさせた。トランプ氏はまた、パナマ運河、グリーンランド、パレスチナ自治区のガザ、そして最も信じがたいことにカナダを支配下に置くと脅し、3月11日には、米国の北方の同盟国(カナダ)との国境は、「人為的な分離線[artificial line of separation]」だと主張した。こうした言動は、略奪者のようだ。
トランプ氏はウクライナへの武器支援を停止し、米国の商業衛星による画像などの提供さえも打ち切った。米大統領執務室でゼレンスキー大統領と口論して立腹したことも背景にはあるが、主な理由は、ロシアが体制を立て直して再びウクライナに侵攻した際、西側諸国がウクライナを支援するという保証をゼレンスキー氏が強く求めていることだ。
トランプ氏は、同盟国を米国経済の血を吸う「ヒル[leeches]」だと言い、関税を課した。トランプ氏が北大西洋条約機構(NATO)の同盟国の信頼を大きく損ねたので、フランスは自国の小規模な核の傘で欧州を覆うことを議論し始め、ポーランドは独自に核兵器を製造し保有することを検討している。両国とも、もはや米国が同盟国の最終的な守護者として行動することを期待できないと危ぶんでいる。同盟国の防衛は、NATO条約が作られたとき、米国が自らに課した中核的な役割だ。
トルーマン大統領以降の全ての歴代米大統領が構築し続けてきたものを、トランプ氏が成功裏に解体できるのかどうかは、誰にも分からない。トルーマン政権時の国務長官(ディーン・アチソン氏)は、彼の著書「Present at the Creation(創造の現場に立ち会う)」の中で、当時を「制度構築の時代[era of institution-building]」と回顧している。現在の米首都ワシントンに住んでいると、まるで「破壊の現場に立ち会っている」かのようだ。
現在起きている変化が恒久的なものになるのか、それとも、もともとの制度の担い手たちが、(ウクライナの)ドンバス地方の塹壕(ざんごう)の中で生き残りを期している兵士のように身を潜めて耐えるのか。答えが出るまでには、4年、あるいはそれ以上かかるかもしれない。それまでに、西側の同盟国は米国中心の体制[America-centric system]から離脱している可能性もある。
「ソフトパワー」の概念の研究で知られる(国際)政治学者ジョゼフ・ナイ氏が最近、トランプ氏についてこう述べている。「ただ乗り問題[problem of free riders]に執着するあまり、バスを運転する側(制度を構築する側)にいることが米国の利益になっていたことを忘れているのかもしれない」
- 【注目記事を翻訳】連載「NYTから読み解く世界」
トランプ氏の行動は、米国の外交政策を再構築する戦術的な動きなのか、それとも「革命」なのか。駐中国大使やNATO大使を務めたニコラス・バーンズ氏が問いかけます。
しかし、より注目すべきはお…