淡い光の中に、力強く立ち伸びるブナの大樹。関東有数のブナ林、玉原高原(群馬県沼田市)の景色を切り取った日本画の作品「冬暁」は、見る人を林の奥へと誘い込む。豊野芳子さん(63)=沼田市=は昨年、将来を嘱望される作家に贈られる群馬県芸術文化振興基金の「山崎種二記念特別賞」に選ばれた。「これまでの受賞者は素晴らしい先生方ばかりなのに、私が?」

 沼田市生まれ。絵が好きで、高校時代は特急に乗って東京・上野の美術館を巡った。美術系の大学で学ぶことも夢見たが、厳しい父には逆らえず、地元金融機関に就職。仕事に明け暮れた。

 忙しくも平穏な日々は、不幸に襲われ続ける。20代から40代にかけて3度、がんの宣告を受け、入院と手術を繰り返した。40歳で命を授かったが、生まれた息子は呼吸がうまくできず、2歳の誕生日を前に亡くなった。

 その後、どんなふうに時間を…

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