戦後80年の広島を舞台にした映画「惑星ラブソング」が5月23日から広島県内で先行公開される。監督は広島で生まれ育った映像作家の時川英之さん(52)。広島の街の過去と現在が交錯するファンタジーで、いま私たちが置かれている核の現実を気付かせてくれる作品でもある。
「シネマの天使」などの作品がある時川さんにとって5作目。「初めて正面から平和をテーマに据えました」。プロデューサーを務めた中国放送アナウンサーの横山雄二さんと戦後80年に向けて映画を作ろうと話し始めたのは、ウクライナ戦争で核が使われる不安が高まっていた頃だった。
映画は、謎の米国人旅行者と若者たちが織りなす不思議なストーリーだ。原爆ドーム、平和記念公園、本通商店街、天満小学校、被爆樹木……。現代の日常に、戦時中や被爆直前の風景が交錯し、幻と現実が融合し、謎が解き明かされていく。やがて、忘れられていた歌が街に響き、人々はひとつの奇跡を見つめる。
監督の体験も反映
広島で平和教育を受けて育った時川さんの体験も反映されている。ファンタジーの中に、核兵器の現状や核抑止論の考え方、核の脅威が迫っていることを、「あまり説教くさくならないように心がけて」織り込んだという。「映画として楽しんでもらえる内容で、かつ、きちんと広島の平和を感じてもらえる映画を作りたかった」と時川さんは語る。
- 「悲惨すぎる」と連載に異論も ジャンプ編集長が「ゲン」続けた理由
JR広島駅の新駅ビル「minamoa(ミナモア)」に入る映画館「MOVIX広島駅」で4月22日に特別上映会が開かれ、時川さん、横山さん、UFO博士役の俳優・八嶋智人さんらが舞台あいさつに立った。
横山さんは「被爆80年に向けて今までなかったような新しい平和の映画が作れたらいいねという話から、まったく何もない状態からストーリーを紡ぎ始めた」と振り返った。八嶋さんは「重たい話でもないし、かわいらしいファンタジーであるけれど、その中に潜んでいるリアリティーみたいなものを持って帰ることができる映画です」と述べた。
「そんなことはありえないって心から思えるような」
先生役を演じた俳優のさいねい龍二さんは上映の後、こう観客に語りかけた。
「ファンタジーではあるんだけど、映画の中で、6カ月後に核戦争が起きるというセリフがあった。あながち、ない話じゃないなと思ってしまった。今、そういう世界情勢だと思うんです。今後、改めてこの映画を見たときに、同じセリフを聞いたときに、ないないない、そんなことはありえないって心から思えるような未来が来ればいいな。そう感じました」
出演者は曽田陵介、秋田汐梨、川平慈英の各氏らをはじめ、西村瑞樹、HIPPY、松本裕見子の各氏ら広島ゆかりの人も。5月23日からMOVIX広島駅など広島県内8カ所で先行公開され、6月13日からシネマート新宿、池袋シネマ・ロサなど全国で上映される。世界を意識し、英語名は「LOVE SONG FROM HIROSHIMA」とした。公式HP(https://wakuseilovesong.com