医療DXその先に㊥
バラバラに置かれた複数の薬に薬剤師がタブレットをかざし、画面のマークをタップする。「センノシド」「バイアスピリン」「ロスバスタチン」……。即座に6種類の薬の名前が表示された。
すべて正解。AI(人工知能)が薬のパッケージなどから識別し、薬の名前を導き出す。薬剤名はタブレットからそのまま電子カルテに登録できる。これまで学習した1200種類以上の薬を見分けることができるという。
横須賀共済病院(神奈川県横須賀市)が取り組んでいる医療DXの一例だ。年間の救急車の受け入れは1万4千台と、全国屈指の実績を誇る。1日あたりの入院患者は600人弱。入院時に患者が持参する薬を電子カルテに記録するのに、薬剤師が1患者あたり20分ほどかけて、見分け入力していた。このタブレットならAIが瞬時に識別、数分で作業は終わる。
病院が医療DXに取り組み始めたのは2017年ごろ。救急の受け入れが増え、多くの人員を割く必要に迫られていた。ちょうどその頃、内閣府の「AIホスピタルプロジェクト」に選ばれた。
病院の様々な業務をデジタル化し、作業時間を数分ずつ短縮することで、膨大な時間が削減でき、人員を他の業務に振り分けることができる。
20年からは入院や手術の説明に動画を活用している。最終的な同意は人が対面で確認するが、1患者あたりの説明時間は半分になり、担当者を減らすことができた。
電子カルテの作成にも音声入力を導入している。看護師が患者の様子をマイクに向かって話せば、タブレット内のカルテに内容が記録される。当初は医療用語が難しく、変換率は60%だったが、今は98%にまで向上。女性看護師は「患者のベッドの横でそのまま音声入力できるので便利になった」と話す。
病院は医師の仕事を他の職種が担うタスクシフトも進めてきた。だが、長堀薫院長は「タスクシフトだけでは限界に近い。仕事そのものを軽くしないと診療が維持できない」と話す。
また患者が自身の医療情報の閲覧や、問診表の入力などをスマートフォンでできるアプリの開発にも取り組む。
長堀院長は、医療DXは病院だけが進めるものではないとし、「多くの人に『デジタル化って便利だね』と思ってもらうことが、最も大切だ」と話す。
高齢者の多剤服用防止に期待
国が進める医療DXの目的の一つに、よりよい医療の提供がある。高齢者で問題となっている、多剤服用による有害事象(ポリファーマシー)を減らしたり、健康寿命の延伸につなげたりすることが期待されている。
高齢者は複数の医療機関にかかることも多く、そのたびに薬を処方されることがある。厚生労働省の資料によると、75歳以上の4割は5種類以上の薬を使っている。6種類以上の薬を使っていると、ふらつきやめまい、便秘、食欲低下などの有害事象が増えるとされる。
医療機関を受診した患者がマ…