11歳だった1945年9月1日朝、登校中に大砲の音が響いた。
「ドーン」
北海道・根室半島から北東約90キロ。得能(とくのう)宏さん(91)が生まれ育った色丹島(しこたんとう)にも、ソ連兵が上陸してきた。
ソ連兵は小脇に、銃弾がいくつも詰まった小型機関銃を抱えていた。将校はピストル。突きつけられた銃口の恐怖は忘れられない。
江戸時代の日露和親条約で確認した国境線をも越えた、占領だった。
得能さんの父は出征して不在だった。家屋や、祖父が操業していた鯨肉の加工場が次々に奪われていく。
祖父は富山県出身。色丹島に渡り、開拓に尽力してきた。失意のうちに翌46年に亡くなった。
一方、ソ連兵の家族も移住してきた。子どもとは一緒に遊び、ロシア語も覚えた。その体験は後に、アニメ映画「ジョバンニの島」(2014年)のモデルになった。俳優の仲代達矢さんや、歌手の北島三郎さんが声優を務めた。
13歳で島を離れ、樺太(現…