五畳敷芋の種芋を植える菊地タミ子さん=2024年5月22日、福島県柳津町

 かむたびにねっとりとしたうまみが口の中に広がり、一度食べたら忘れられない。

 そんな里芋が、福島・会津地方の山深い里で受け継がれている。守ってきたのは80代の女性だ。

 福島県柳津町に伝わる「五畳敷(ごじょうじき)芋」。約60人が暮らす五畳敷集落で、集落の人たちが昔から自分で種芋を採取して作り続けてきた。一般的に手に入る里芋より粘りが強く、ねっとりとした食感で、おでんや芋煮に使う。

 かつては冬を越すための貴重な食料として、どの家でも作っていた。だが、種芋の凍結と乾燥を防ぐため、昔は山に横穴を掘って越冬させるなど手間がかかった。人口は半世紀で3分の1以下になり、作る人も年々減少。菊地タミ子さん(87)1人になった。

継承危ぶまれる作物も

写真・図版
畑から掘り出された五畳敷芋=2022年10月、福島県柳津町、山形大・江頭宏昌教授提供

 世代を超えて長年地域で栽培されてきた野菜や雑穀は、在来作物、伝統野菜などと呼ばれる。

 現在、広く流通している野菜は作りやすいように品種改良されたものだ。在来作物には、品種改良された作物にはない特徴や風味がある。一方で、収量が少ない、手間がかかるといった難しさもあり、継承が危ぶまれるものも少なくない。

 家族と温泉旅館を営む傍ら自家用に栽培してきた菊地さんも、何度も「もうやめたら」と言われた。そのたびに「五畳敷の芋はおいしさが違う。絶対やめない」と言い返した。塩ゆでにして旅館の常連客に出すと「粘っこくてうまい。里芋じゃないみたいだ」と絶賛された。だが、年齢を考えると作れなくなるのは時間の問題だった。

 転機は2022年10月。各…

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