養鶏場を再開し、成長する名古屋コーチンに目を細める中村友哉さん=2025年6月20日午後2時38分、愛知県常滑市、臼井昭仁撮影

 この冬、全国で猛威を振るった鳥インフルエンザなどの影響で卵不足が続き、食卓に欠かせない卵の価格が今も高止まりしている。被害を受けた養鶏を営む農家は、安定供給に向けて経営再建を目指しているが、餌代の上昇といった物価高も追い打ちとなり、「元の出荷体制に戻るには1年以上かかる」と話す。

 養鶏が盛んな愛知県の知多半島。常滑市にある中村友哉さん(69)の鶏舎で今年1月、鶏が数羽死んでいるのが見つかった。前日、近くの養鶏場で鳥インフルエンザの感染が確認されていた。陽性なら家畜伝染病予防法に基づき、全約1万7千羽を殺処分しなければならない。

 「どうしてひなまで処分しないといけないの」

 検査の結果は陽性だった。妻(67)の訴えにもなすすべが無かった。

鶏舎の消毒や出入り制限でも感染

 約30年前、薬品会社から脱サラをして養鶏場を始めた。飲食店などに販売し、年間の売上高は8800万円。鳴き声が聞こえなくなった計8棟の鶏舎を見て途方に暮れた。

 杉浦康治さん(40)も半田市内の鶏舎で飼育していた全約20万6千羽を殺処分で失った。窓のない鶏舎で消毒作業を繰り返し、出入りする従業員も制限していた。「対策は徹底していたつもりだっただけに、精神的にもきつかった」と振り返る。

 鳥インフルエンザは昨年10月~今年3月、全国各地で感染が確認された。採卵用の鶏を扱う農家数が2024年全国1位、飼育数は同5位の愛知県内では、知多半島の計13の農家の農場でウズラ約25万羽、採卵用の鶏約161万羽が殺処分された。

 「(取引業者に)借金もあるのでいっそ廃業したら、と忠告されたのですが、励ましの声もあったので」。中村さんは再開に踏み切った。

 殺処分した農家に国は損失補償するが、支給まで1年ほどかかり、県は無利子の「つなぎ融資」をしている。さらに「経営が軌道に乗るまでの支援に」と知多養鶏農業協同組合(半田市)がクラウドファンディングで募った寄付計254万円は中村さんら3農家に分配する。

■「経営はギリギリ」…

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