熱唱する原田康夫さん=2024年6月1日午後2時15分、広島市中区、副島英樹撮影
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 かつて「歌う学長」と呼ばれ、世界最高齢のテノール歌手といわれる元広島大学長で医師の原田康夫さんが、93歳を迎えたばかりの6月1日、広島市中区でリサイタルを開いた。アンコールを含めて計21曲を熱唱し、客席からは「ブラボー」の掛け声が何度も飛んだ。

 広島出身で国際的に活躍するピアニスト萩原麻未さんの伴奏にのせて、「初恋」や「箱根八里は」などの日本歌曲、「帰れソレントへ」などのナポリ民謡やイタリア歌曲、プッチーニやヴェルディのオペラアリアなどを歌い上げた。

 アンコールに応え、「93歳でも元気にしておりますぞ。それでは『おーそれみたか』をいきましょう」と「オー・ソレ・ミオ」を熱唱し、続けて広島の民謡「音戸の舟唄」やイタリアの歌も歌った。余興としてバイオリン演奏も披露して多才ぶりを発揮した。

 最後にお礼のあいさつに立った原田さんは、舞台から観客にこう呼びかけた。「おかげさまで何とか歌いました」「まだまだ頑張るぞ!」

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 原田さんは今も現役の耳鼻咽喉(いんこう)科医として患者を診察する傍ら、可能な限り歌い続けたいと練習を重ねている。昨年5月には東広島市の広島大学サタケメモリアルホールで上演されたヴェルディのオペラ「椿姫」で、主役のアルフレードを熱演した。

 広島一中(現・広島国泰寺高校)の2年生だった1945年8月6日、今の広島県呉市天応にあった自宅2階から原爆のキノコ雲を目撃。実家が薬問屋だったため、広島から運ばれてくるやけど姿の被災者に母と一緒に薬を塗った。親類を捜し歩いた入市被爆者でもあり、原爆の焼け跡の闇市でプッチーニのオペラ曲のレコードに出会ったのが歌の道に進む契機となった。

 長く元気でいるためには「好きなことをやって目標を持ち、夢を持つことが第一」と、原田さんはつねづね語っている。(編集委員・副島英樹)

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