欧州人権裁判所(仏・ストラスブール)が4月9日、気候変動対策に関する住民訴訟で画期的な判決を下しました。スイス政府が気候変動から市民を守る十分な取り組みをしなかったことが人権侵害にあたるとする判断です。この判決の内容や意義、日本への影響について、気候変動訴訟に詳しい弁護士の浅岡美恵さん(76)に聞きました。
- 気候変動「スイスの不十分な対策は人権侵害」 欧州人権裁判所が判断
――どういう裁判でしたか。
申立人は、スイス在住の2千人以上からなる高齢女性の団体と、その代表的な立場の4人です。気候変動による熱波などで健康や生活に大きな悪影響を受けており、スイスの気候変動対策は不十分だと訴えました。
――どうした点が不十分だったのでしょうか?
申立人らは、スイス政府の気候変動対策は、産業革命前からの気温上昇を1.5度までに抑えるために許容される炭素排出量「カーボンバジェット(炭素予算)」を踏まえておらず、欧州人権条約の第2条「生命に対する権利」と第8条の「私生活および家族生活の尊重」を侵害していると主張していました。スイスでの訴訟は最高裁で却下されていましたが、欧州人権裁判所に2020年に訴えました。
――判決はどんな内容ですか。
裁判所は、気候変動対策に関する国の不適切な行為や不作為が、個人の健康に影響を及ぼしうるとしました。その上で、第2条と第8条の権利は原則として類似しているとして、第8条についてのみ判断し、その侵害を認め、スイスの対策は不十分としました。
「人権の享受脅かす」 将来世代への負担も
――注目した点は。
危険な気候変動を回避するた…