国鉄末期に登場した電車が、地方私鉄で新たな活躍の場を得ることになりそうだ。JR東海は今年3月、通勤用車両の211系を三岐鉄道(三重県四日市市)に譲渡した。時期は未定だが、再デビューを果たす予定だ。
211系は、国鉄分割民営化を翌年に控えた1986年に運行が始まった。片側3ドアの汎用(はんよう)型の電車は、軽量で高速性能を備えており、ステンレスの車体にはオレンジと緑のラインが入っている。
分割民営化後のJR東海では、東海道線や中央線など走り続けてきた。しかし、最新型の通勤用車両315系の投入が2021年に始まり、211系は順次置き換えられて完全に引退する見通し。
三岐鉄道が3月に譲り受けたのは、89年に製造された「5000番台」の15両。いずれも走行距離は700万キロを超えている。同社では、近鉄富田駅(三重県四日市市)と西藤原駅(同県いなべ市)を結ぶ三岐線で運用するとみられる。
これまで三岐線の主力は、西武鉄道から譲渡された鋼製の車両だった。最も古い車両は1964年製とほぼ「還暦」を迎えている。
鉄道車両は製造から30~40年での置き換えが一般的とされているものの、三岐鉄道の担当者は「大手の会社はできても、地方私鉄には難しい」という。211系のようなステンレスの車両は「塗装する必要が無く、腐食にも強い。形式を統一した方が維持管理の効率化もできる」と話す。
JR東海は、過去にも国内外へ車両を譲渡してきた。近年では、特急「ひだ」や「南紀」に使われた気動車「キハ85系」が京都丹後鉄道へ移ったほか、ミャンマー鉄道省の要請を受けて気動車が海を渡ったケースもある。(辻健治)