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創作した物語を読み上げる大槌高の生徒ら=2025年1月25日午後、大槌町文化交流センター、東野真和撮影

 東日本大震災で甚大な被害があった岩手県大槌町で、実際は被災体験がなく、あっても幼くて記憶が薄い大槌高校の生徒が、あえて被災にまつわる物語を考え、被災者と語り合う試みが25日、同町の町文化交流センターであった。

 架空体験を創作し、話すことが目的ではない。震災をより理解し、被災者との距離を縮めるために、趣旨を理解して参加してくれた町民に、約10人の生徒たちが自分事として考えた被災の物語を読み上げた。

 生徒たちは事前に被災者から体験を聞き取ったり、記憶に乏しい自身の体験を想像したりして設定を考えた。物語は、生成AIのツールに書き込んで1500字の文章を改良した。

 試みの背景にある問題意識は、生徒たちが抱く「知らないのに軽々しく震災の話をしてもいいのか」「被災した人と震災の話をすると相手を傷つけてしまうのでは」というためらいだ。

 だが、被災体験は伝えていかなければ、そのうち語る人がいなくなってしまう。生徒たちは「震災体験は教わるもの」ではなく、被災者と気持ちの共有ができるようになりたいと考えた。

 作山栄斗さん(1年)は、津波で亡くなった人を両親に置き換えてみた。「自分で決めた設定だが嫌な気分だった。(創作の元となった)経験者の話に圧倒された」。逃げ遅れて亡くなった人が祖母だったと想像してみた志土富葵さん(同)は「話していて心が痛かった。偽の話をすることが(被災者に)失礼だという気持ちもあったが、被災した人と同じ立場になれた気がした」。関谷璃美さん(同)は、記憶にない被災体験を両親から聞き取り、覚えているように演じてみた。「体験していたような感じがした」という。

 物語を聞いた被災者は、「語るのはもうたくさんだという思いもあるが、次の世代が語るヒントになるのであれば協力したい」「若い人に語る機会自体がなかったのでよかった」などと語った。

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