昨年11月の兵庫県知事選を巡り、斎藤元彦知事とPR会社社長が公職選挙法違反容疑で告発された問題で、神戸地検と県警は7日、PR会社「メルチュ」(兵庫県西宮市)の複数の関係先を家宅捜索した。捜査関係者への取材でわかった。関連の資料やスマートフォンを押収したといい、立件できるかどうか慎重に捜査する。これまで社長にも任意で事情を聴いていたという。
- 斎藤知事「公選法に違反した認識ない」PR会社関係先など捜索めぐり
複数の捜査幹部は、任意段階の捜査では、メルチュ側から資料提出などで十分な協力を得られなかった、と説明している。違法性の有無を見極めるには、強制捜査が必要と判断した。斎藤知事側への捜索はしていない。
昨年12月に元東京地検検事の郷原信郎弁護士と神戸学院大の上脇博之教授が告発していた。
告発状によると、メルチュの社長は選挙運動者としてSNSなどの「戦略的広報業務」を斎藤知事側から受託し、知事選告示後に支払われた計71万5千円は選挙運動に対する報酬だった疑いがある、としている。
公選法は、候補者が当選を得るなどの目的で選挙運動者に金銭を渡したり、それを受け取ったりする行為を原則禁じている。
知事選後に、社長のアカウント名で投稿サイト「note」に「(知事選の)広報全般を任せていただいた」などと投稿され、違法の可能性がSNSなどで指摘されていた。
地検と県警は今後、社長が「選挙運動者」に該当するかどうかや、71万5千円が選挙運動への対価なのかどうかについて、押収した資料などをもとに検討を進める。捜査幹部は「証拠品の精査には時間がかかる」と話す。
- なぜ斎藤知事とPR会社が告発されたのか SNS運用と知事側の説明
斎藤知事側はこれまで、71万5千円は選挙運動に対してではなく、公選法で認められたポスター制作など5項目への対価だったとして、違法性を否定している。
斎藤知事は7日午後、県庁で記者団の取材に対し、「公職選挙法等に違反することはないという認識に変わりはないが、引き続き捜査に対して要請があればしっかり協力していく」と述べた。
社長は、これまで朝日新聞の取材に応じていない。
SNSによる選挙運動をめぐっては、今年1月に神戸市議が自身のユーチューブのアカウントで動画を投稿し、斎藤知事側の広報担当者から告示前に「PR会社にお願いする形になった」とのメッセージをLINEで受け取ったことも明らかにしている。
郷原弁護士「捜査当局はしっかり分析を」
兵庫県の斎藤元彦知事が再選された昨年11月の知事選をめぐり、斎藤知事と兵庫県西宮市のPR会社社長を公職選挙法違反(買収、被買収)容疑で告発した元検事の郷原信郎弁護士は取材に対し、「知事選でPR会社がどんな戦略で、実際に何をやったのかについての証拠を収集するために捜索に踏み切ったのではないか」と分析する。
取材は、神戸地検と県警が7日、PR会社の関係先などの家宅捜索を始めたことを受けたもの。郷原氏はさらに、「捜索で新たな事実が出てくるかもしれない」と指摘。「捜査当局は押収資料をしっかり分析してほしい」と話した。
斎藤知事の代理人弁護士「答えられない」
一方、斎藤知事の代理人を務める奥見司弁護士は取材に「捜査が進み、事案解明、斎藤元彦氏の潔白が早く明らかになることを期待している」と話した。
また、斎藤氏側が捜査当局に対して、PR会社からの請求書などの関係書類を任意提出していることも明らかにした。
朝日新聞はPR会社社長が投稿サイト「note」に知事選の経緯を掲載した昨年11月中旬以降、社長らにたびたび取材を申し込んできた。PR会社は当初、取材に応じる意向を示していたが、SNS上で公選法違反疑惑の指摘が相次いだ11月下旬、「取材は一律にお断りする」と回答。疑惑について尋ねると、「弁護士とともに回答を打ち合わせしている」としたが、その後、連絡は途絶えた。