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エピゲノム編集ではDNAの配列そのものには手を加えず、遺伝子の「スイッチ」を操作する

 DNAの情報を書き換えるなどして遺伝子を操るゲノム編集。これとは別に、遺伝子を働かせるスイッチをオンにしたりオフにしたりする手法「エピゲノム編集」の実用化をめざす試みが進んでいる。

 DNAはA、T、C、Gの4種類の文字情報で表される塩基でできている。文字の並びが遺伝子の情報として読み取られ、生命を支えるたんぱく質などがつくられていく。

 体中のどの細胞にも基本的に同じ配列のDNAが収められているが、脳や心臓、皮膚など、細胞の働きはいろいろ。ふさわしい場所でしかるべき遺伝子が働くよう、スイッチがオンになったりオフになったりしているためだ。

 こうした、DNAの変化を伴わずに遺伝子の機能などが変わっていく現象を探る研究を「エピジェネティクス」と呼ぶ。遺伝子のスイッチを人為的に操ろうとするのが「エピゲノム編集」だ。

「オフ」にして、LDLコレステロールを抑制

 イタリアのチームは昨年、マウスにエピゲノム編集を施すことで、血中のLDLコレステロールの量を抑えることに成功した、と英科学誌ネイチャーで発表した。

 ねらったのは、肝臓などで働くPcsk9という遺伝子のスイッチをオフにすること。Pcsk9は、血中のコレステロールを細胞に取り込むたんぱく質を壊す方向に働き、結果的にコレステロール値を高めてしまう。

 この遺伝子をオフにする酵素などのツールをマウスに注入し観察すると、30日後の血中LDLの値は減少。Pcsk9の働きを抑える効果は、実験を終えるまでの330日間にわたり続いた。

 肝臓の細胞は再生しやすい特徴がある。細胞が再生されても効果は維持された。チームは、Pcsk9遺伝子のスイッチオフの状態は、分裂で新たに生まれた細胞にも引き継がれたと分析する。

「オン」にして、筋力低下を改善

 眠っていた遺伝子のスイッチ…

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