王の間をピラミッド内部につくろうとすると,単純に石材を積むだけではみずからの重みで空間自体がつぶれてしまう。クフ王の大ピラミッドの内部には,新たな建築構造を発明し,試行錯誤しながら王の間を建てた痕跡がさまざまなところに残っている。
王の間の上におかれた「重量拡散の間」もそのような試行錯誤の一つだ。重量拡散の間は,王の間にかかる重量を分散するためにつくられた5層からなる空間で,最上部の空間が切妻屋根(三角屋根)のような形状になっている。この「切妻構造」は上からの重量を拡散するためにクフ王が発明し,女王の間の天井にも使われている。
玄室の天井や重量拡散の間などにはところどころにひび割れがあり,古代のモルタル(砂とセメントと水からできる建築材料)ですき間を埋めて修復されている。もし空間が重量に耐えられなければ,モルタルで埋めたすき間が広がる。「古代エジプト人たちは,モルタルの周囲に広がったすき間の状態をみて空間が重量に耐えられるかを確認しながら,工事を進めていったと考えられます」(河江教授)。このひび割れやすき間からは,当時の人々が試行錯誤しながら大ピラミッドの建造を進めたことが想像できる。
大回廊の上に未知の巨大空間
近年,大ピラミッドの内部にある空間は,これだけではなかったことがわかった。2017年に,クフ王の大ピラミッド内部にある大回廊の上に,大回廊に匹敵する長さ30メートル超の未知の巨大空間が存在するという発見が学術誌「Nature」に報告された。発見したのは,日本,フランス,エジプトの共同研究チーム「スキャン・ピラミッド計画」だ。日本からは,物理学者の森島邦博名古屋大学准教授らが参加した。森島准教授らは,宇宙から降りそそぐ素粒子「ミューオン」をとらえて解析し,X線で人体を透視するようにピラミッド内部を画像化(イメージング)して空間を発見した。
ミューオンによるイメージン…