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「論理的思考とは何か」の著者、渡邉雅子さん=本人提供

 「日本人は非論理的」「論理的に話す訓練を」といった言説は、飽きるほど耳にしてきた。だが、私たちは本当に非論理的なのか。そもそも「論理的」とは何か。実は「論理的」と認識されるものは、国や文化圏によって違うのでは? そんな仮説から出発し、「論理的」の謎を解き明かした研究が注目を集め、書籍が話題を呼んでいる。

 名古屋大学の渡邉雅子教授(社会学)が、各国の作文教育を調査し、岩波新書「論理的思考とは何か」にまとめた。昨年10月の発売後、3カ月余りで5万8千部を突破。6回の重版がかかる異例のヒットとなっている。

 岩波新書は通常、60代以上の男性の購入が多いが、この本の場合は10~40代が半数程度を占めるという。東京大、京都大の生協でも新書の売り上げで1位になるなど、若い世代にも支持を受け、SNSなどを通じた横への広がりをみせている。

 先行研究はほとんどなかったというが、入り口は渡邉さん自身の経験にあった。1980年代末、アメリカの大学に留学した際、小論文を提出すると「評価不可能」と赤ペンで書かれて突き返された。どんなに丁寧に書き直しても、同じコメントが繰り返されたという。

 だが、主張を先に持ってきた上で、理由と結論を述べるアメリカ式の書き方の型にはめただけで、評価は「三段跳び」で良くなった。「自分の中でとても衝撃的で、『文化の衝突』とも言える出来事でした」と、渡邉さんは振り返る。もしかして、国ごとに「論理的だ」と思うものに違いがあるのではないか。それは衝突の温床になりうるのでは? そんな予感が生まれた。

私たちはなぜ、他者を「非論理的」と感じるのか

 その後、渡邉さんは30年以…

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