北朝鮮による拉致被害者の有本恵子さん(不明当時23)=神戸市出身=の父、有本明弘(ありもと・あきひろ)さんが老衰のため亡くなったことが17日、関係者への取材でわかった。96歳だった。再会を願って長年活動してきたが、かなわなかった。
三女の恵子さんは1983年、欧州へ留学中に拉致された。
明弘さんは88年、同じく欧州で拉致された石岡亨さんが家族にあてた手紙から、留学先で行方不明になっていた恵子さんが、石岡さんと一緒に北朝鮮にいることを知った。
以来、政府に奪還を求め続け、97年に同じ拉致被害者の横田めぐみさんの両親らと拉致被害者家族連絡会(家族会)を結成。一時は副代表を務めた。
02年の小泉純一郎首相(当時)による訪朝で、北朝鮮は恵子さんを「死亡」と伝えてきた。しかし北朝鮮の提出した死亡確認書は生年月日が違い、死亡したとする88年以降も目撃情報があることなどから「恵子はまだ生きている」と引き続き再会を願った。
14年に北朝鮮が拉致被害者の再調査を約束した際には「これが最後のチャンス。政府に同行して私も北朝鮮に行きたい」と期待を寄せていた。
だが20年2月、恵子さんとの再会をともに待ち望んでいた妻の嘉代子さんが94歳で先立った。
明弘さんもここ数年は体調がすぐれず、車いすでの生活を続けていた。
北朝鮮人権侵害問題啓発週間にあわせた兵庫県警のパネル展には、足を運んできた。22年12月には、「もう(自分に残された)年数は知れとる。生きとる間に何とか」と語った。昨年12月には、「トランプ氏と協力して、日本国の最重要課題である拉致問題解決のために全力で取り組んでもらいたい」などと政府に求めていた。
家族会の横田拓也代表は、「恵子さんに会わせてあげたかった。本当に残念です。ご冥福をお祈り申しあげます。日本政府は速やかに日朝首脳会談を行い、全拉致被害者の即時一括帰国を実現してほしい」とのコメントを発表した。
石破首相「本当に残念だ」
有本明弘さんの死去をうけ、石破茂首相は17日午前、「本当に残念だ。最後に交わした言葉は私の脳裏に強く焼き付いている」と述べた。その上で、北朝鮮による拉致問題について「あらゆる方策を講じて解決する」と改めて強調した。衆院予算委員会で、自民党の牧島かれん氏の質問に答えた。
トランプ米大統領への拉致問題解決に向けた働きかけについて、首相は「来日の際には、拉致被害者家族との面会も当然働きかけていかねばならない」と語った。