角砂糖を1個、林さんから買ったことがある。市販の砂糖に赤い糸を結んで「Gift」と呼ぶ、田中朝子さんの作品だ。「これぞ現代アートや。美術記者なら持っとかな」。口八丁な売り文句にも聞こえたが、今思えばあれは、世界を面白がる目という林さんらしい贈り物だった。
林聡さん
ギャラリーノマル・ディレクター
2024年11月1日死去(敗血症) 60歳
学生時代、版画制作と出版が一体化した欧米型の工房に憧れた林さん。1989年に版画工房を設立後、デザイン編集スタジオ、ギャラリーを新設、複数機能を併せ持つ株式会社ノマル(大阪市)へと育てた。名和晃平さんや蔡國強さんら著名な作家の制作に協力し、やがて関西を代表する現代美術の拠点の一つに。天井の高い展示空間の響きを生かして、前衛音楽と美術を融合したライブも企画した。
「アーティストを作るアーテ…