慶応大学名誉教授 小此木政夫さん
韓国が尹錫悦(ユンソンニョル)大統領による「非常戒厳」発令で大混乱に陥る一方、北朝鮮はロシア派兵やミサイル発射で国際秩序を揺るがしています。朝鮮半島を長く見つめてきた小此木政夫・慶応大名誉教授のインタビュー後半では、国土の分断と北朝鮮情勢について話を聞きました。
戦争では南北分断を解消できず
――南北朝鮮が戦った朝鮮戦争の勃発からだけでも今年で75年となります。分断は固定化されています。
「朝鮮半島にはナショナリズムの分裂に加えて、国土の南北分断という二つの大きな『分断』があります。その二つが絡み合って、複雑に朝鮮半島の分断を固定化してきました」
「国土の分断は、第2次世界大戦の終結時に米ソ両軍が北緯38度線を境界線として、それぞれ日本軍の降伏を受理し、その後の占領行政を担当したことに起因します。それを土台にして、1948年に大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国が樹立されました」
正面衝突した左右のナショナリズム 韓国、「非常戒厳」から混乱続く
インタビューの前半では、小此木さんは「非常戒厳」に端を発する韓国の混乱の背景にある「ナショナリズムの分断」について詳しく語っています。
――ほどなく朝鮮戦争が始まりますね。
「1950年に始まった朝鮮戦争は分断解消の機会でした。1953年の休戦後、再び分断解消の機会が訪れたとすれば、それは1990年代です。ベルリンの壁が崩壊し、北朝鮮の友好国だったソ連・東欧の社会主義国家が次々に体制転換して、韓国と国交を樹立しました」
「北朝鮮はこの時期、社会主義陣営を失っただけでなく、1994年7月に建国以来の指導者、金日成(キムイルソン)主席を失い、さらに翌95年から3年連続の自然災害に見舞われました」
「しかし、後継者の金正日(キムジョンイル)総書記が選択したのは、大飢饉(ききん)となった『苦難の行軍』と、軍事優先の『先軍政治』という内部結束の強化であり、強引な核兵器開発の推進でした。それはあたかも、核武装が体制危機を解決する手段であると確信するかのようでした」
――北朝鮮は今や核保有国を自任しています。
「北朝鮮の核兵器開発が具体…