2025年秋冬シーズンのパリ・ファッションウィーク(PFW)は3日目の5日、創業者が退任したドリス・ヴァン・ノッテンの新クリエーティブディレクターのデビューショーや、クワイエット・ラグジュアリーのブームの先頭を走るザ・ロウなどのショーがあった。
【動画】2025年秋冬の新作を発表するミラノとパリのファッションウィークが開催。会場には日本や韓国などアジアのスターも数多く訪れた=後藤洋平撮影
ザ・ロウ
この日最初に向かったのは、ザ・ロウ。パリ中心部オペラから程近い会場に着くとスタッフが私の名前を確認し、「あなたの場所は2階の最初の部屋です」と告げた。
案内に従って「最初の部屋」に行くと、ソファや椅子がいくつか置かれているが、席の番号は書かれていない。聞くと、「どこに座ってもいいし、立ったままでもいいし、なんなら床に座って見てもいいので」。
そんな感じで、他のブランドのショーとは全然雰囲気が違う。最も違うのは、ショーはもちろん、場内を撮影することが一切禁止されていることだ。このブランドは「SNS映え」や、いわゆる「バズり」を求めていないというか、むしろ避けている。写真は後日、ブランドから公式に送られるのを待つしかない。
そんなわけで必死でメモを取る。まず、登場したモデルが全員靴を履いておらず、タイツのまま床を歩いていた。しかも、タイツをストールのように首にかけているモデルも何人かいた。ボトムスを着用しているモデルも少なく、タイツがボトムスと化していた。スカートをはいたモデルはいたが、パンツをはいているモデルはいなかった。
こう書くと変な感じに伝わるだろうが、それでも高級感あふれる装いに見えるのが面白い。ストールのように使っているタイツはカシミヤだろう。あれはもうはくものではなく、巻くものだ。レザーのコート、ファーのドレスは「いかにも」な高級感を放っていた。
そして、事前に相当「写真NG」と周知されていたにもかかわらず、来客者の中にはスマホで堂々と撮影している人もいた。そんな様子を、同じ部屋で見ていた英国人のベテランジャーナリストが、にらみつけていた。
カサブランカ
続いてはルーブル美術館の地下施設で開かれるカサブランカのショーに。会場には、日本のゆるキャラのような着ぐるみが2体。大きなのれんが掲げられ、カタカナで「カサブランカ」と書かれている。そういえば招待状には「KAIZEN」と書かれていた。日本が誇るトヨタの「カイゼン(改善)」の精神は世界的に有名だが、これがシーズンテーマなのかもしれない。
PR担当に聞くと、クリエーティブディレクターのシャラフ・タジェルは大の日本好きで、頻繁に訪れているのだという。
このブランドはカジュアルなストリート系だが、テーラードとのミックスも得意だ。今回は着物風のジャケットもあった。シャープなスーツやコートとシースルーのドレス、蛍光イエローのシャツやブルゾンと、極端にテイストの違う装いを一挙に見せてブランドの奥行きをアピールしていた。
ドリス・ヴァン・ノッテン
この後は、今季のPFWでも注目のドリス・ヴァン・ノッテン。オペラ座ガルニエ宮での開催だ。本人がデザインを手がけていた16年秋冬シーズンのメンズコレクションでも、ここでショーを披露したのを思い出す。ブランドを引き継いだジュリアン・クロスナーが最初の場所に選んだのは、フランスを代表するこの場所だった。
ドリスといえば色づかいと柄。ドリスといえば刺繡(ししゅう)。ドリスといえばテーラード……。熱狂的な服好きに長年支持されてきたこのブランドには、「ファンそれぞれのドリス」がある(たぶん)。クロスナーも、それを分かっている。テーラードコートに装飾を施したコートで始まり、ジャカードやスパンコール、発色のいいコートやスーツなどが披露された。タッセルが幾重にもつけられたジャケットやコート、大きめの柄の上に施された刺繡など、やや過剰に感じるところもあったが、それも「味」ともいえる。
デルヴォー
ガルニエ宮をあとにすると、徒歩5分ほどのヴァンドーム広場で開催されている高級バッグのデルヴォーの展示会に。今季はブランドの象徴として半世紀近くも愛されている「ブリヨン」の新作のブリヨン・テンポが出た。バッグを開くと中から別の持ち手が出てくる構造になっている。フォーマルにもカジュアルにも対応するハンドバッグだ。
ステラ・マッカートニー
この日最後に訪れたのは、パリ北部の郊外で開催されたステラ・マッカートニーのショー。会場に入ると、仏大統領の妻ブリジット・マクロンと米ヴォーグ誌の名物編集長アナ・ウィンターが談笑していた。
今季は動物由来のファーやレザーの使用が各ブランドで目立っているが、それらを一切使用しないことを掲げ、業界全体に使用禁止を唱えているステラ・マッカートニー。招待者の席には「ザ・ステラ・タイムズ」と題された新聞が置かれており、そこには動物愛護団体PETAの調査などが引用され、「業界は(ヘビやダチョウ、ワニなどの)エキゾチックレザーをやめるべきだ」と主張し、その根拠について書かれた記事が大きく掲載されていた。
バッグ一つを作るためには4匹のワニの皮革が必要なケースがあり、そうしたワニたちが密集や汚染された環境で飼育された上で、射殺されたりハンマーで撲殺されたりしていること。本来は40年超の寿命のダチョウが生後1年で殺されていること……。ステラ・マッカートニーがニシキヘビやオーストリッチ(ダチョウ)の代替素材を使っていることなども記されていた。
ショーが始まると、登場したヘビ皮のような模様の服は、よくみるとデジタル画像を拡大したようなピクセル柄になっている。テーラードジャケットにスイムウェアのようなインナー、極端に股上の浅いボトムスを合わせたクールな装いも印象的だった。