がんの治療と仕事の両立に苦しんだ。その経験が、行動の原点となっている。
渡部俊さん(42)は、ヘリコプターや小型ジェット機などの航空事業を全国で展開する朝日航洋の社員だ。現在は、東京の本社で営業統括室の係長を務める。
大腸がんと、その後の肝臓や肺への転移で、2023年11月までの11年半の間に、8回もの手術を受けた。がんと向き合う中で、身をもって「治療と就労の両立支援」の大切さを知り、会社を動かしてきた。
12年5月。出勤中から激しい腹痛が続き、早退して駆け込んだ病院で意識を失った。大腸がんが原因の腸閉塞(へいそく)だった。翌月に手術を受け、がんの進行度は「ステージ3b」と告げられた。
当時30歳。前年に結婚し、営業の最前線で働いていた。突然、何もかもが変わり、「精神的にも追い詰められた」。仕事は営業を後方支援する部署に異動になった。
苦しんだ抗がん剤治療、知らなかった社内制度
手術後に受けた半年間の抗がん剤治療でも、強い副作用に苦しんだ。気持ちの浮き沈みが激しくなり、自宅マンションから飛び降りる衝動に駆られたこともあった。
それでも生活のため、長期の…