女性患者の胸を手術後になめたとして、準強制わいせつ罪に問われた乳腺外科医関根進被告(49)の差し戻し審の判決が12日、東京高裁(斉藤啓昭裁判長)であった。判決は、被告を無罪とした一審・東京地裁判決を支持し、検察側の控訴を棄却した。
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被告は2016年、東京都内の病院で胸の腫瘍(しゅよう)の摘出手術をした後、麻酔の影響で意識がもうろうとする女性の胸をなめたとして起訴された。裁判で被告は無罪を主張していた。
19年の一審・東京地裁判決は、女性が麻酔からの覚醒などの際に生じる意識障害「せん妄」によって幻覚を見た可能性を指摘。女性の胸から被告と同じDNA型が検出されたが、会話の際に被告の唾液(だえき)の飛沫(ひまつ)がついた可能性などが否定できないとして無罪とした。
その後、東京高裁は20年、逆転有罪の判決を言い渡した。精神科医の証言を根拠にせん妄の可能性を否定し、DNA型鑑定も「女性の証言を補強する」と述べて懲役2年の実刑とした。
しかし2022年の最高裁判決は、高裁が有罪の根拠とした精神科医の証言は医学的に一般的なものではないと指摘し、高裁判決を破棄した。DNA型鑑定の結果の妥当性を検討し、被害にあったとする女性の証言を信用できるかについて審理をやり直すべきだと判断。高裁に審理を差し戻していた。
再鑑定できず、記録も消しゴムで修正
一連の裁判では、DNA型鑑定の過程が論点になった。
一審の公判資料によると、捜査段階で警視庁の科学捜査研究所は、女性の左胸から採取した微物をもとにDNA溶液を抽出した。溶液の一部を使って鑑定をしたが、残りは廃棄しており、再鑑定ができない状態だった。
さらに、鑑定経過を記録した資料には消しゴムで修正した部分が少なくとも9カ所あった。
こうした経過に対して地裁判決は「誠実さに疑念がある」と批判。一方で、高裁判決は「(鑑定結果の)証明力を減少させることにはならない」と判断していた。