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横浜の「二枚看板」の左腕・奥村頼(手前)と右腕・織田
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 昨秋の明治神宮大会を制した横浜は、優勝候補の一角として6年ぶりの選抜高校野球大会に臨む。1998年、松坂大輔らを擁し史上5校目の春夏連覇を果たしてから27年。あの頃の「緻密(ちみつ)な野球」を取り戻しつつある。

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 横浜らしさを象徴する場面は、神宮大会準決勝の東洋大姫路戦にあった。1―1で迎えた延長タイブレーク、十回裏の守り。1死満塁のピンチで横浜の村田浩明監督が仕掛けた陣形に、観客がどよめいた。

 敷いたのは「内野5人シフト」。エース左腕・奥村頼人(3年)の直球なら右打者に引っ張られにくいというデータを元に、左翼守備を捨てた。内野は通常の4人を前進守備させてスクイズを狙う相手に重圧をかけつつ、二塁上に控え野手を守らせた。本塁や二塁での併殺をちらつかせ、打者の選択肢を狭めていく。この窮地を無失点で乗り切ると、直後の攻撃で勝ち越しに成功した。

 賭けに見えた決断も、チームにとっては必然だった。試合後、村田監督は「100回に1回、1千回に1回(しかない)というプレー」としつつ、約1年前の試合で内野5人シフトを成功させ、同様の状況を想定した練習を重ねてきたと明かした。

 38歳の監督は選手への指導で「経験がないことをどれだけ減らせるか」を意識する。「1千回に1回」のプレーを準備する周到さ。それは、監督、コーチとして横浜を5度の頂点に導いた渡辺元智さん、小倉清一郎さんという恩師2人から引き継いだDNAだ。

 横浜高の捕手として涌井秀章(現中日)らとバッテリーを組み甲子園を戦った村田監督が、2人から学んだ教えは数知れない。得点圏に走者がいる場面で邪飛を捕ったらどうするか、相手投手の癖の読み方など、中学時代まで考えてもいなかった野球の深みまで考える癖がついた。

 横浜は渡辺氏が2015年に勇退して以降、甲子園大会で8強に届いていない。打線と投手頼みの大味な野球になっていた母校に、20年に就任した村田監督は再び良き伝統を根付かせ、徐々に結果がついてきた。

 低反発バットの導入も後押しする。打撃戦が減り、1点を守る重要性が高まる戦いは、横浜の緻密(ちみつ)さとの相性がいい。昨秋の関東大会3試合、神宮大会3試合はいずれも1~2点差の競り合いを制した。

 シビアな状況でも、勝ちを積み重ねてきた選手たちに監督は手応えを感じている。「負けない野球を展開したい」。2月中旬の練習では中継プレーの細かな確認に時間を費やすなど守備へのこだわりは強い。神宮大会を制し、続く春夏の甲子園を駆け抜けた98年の再現は見られるか。

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