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 2025年秋冬シーズンのパリ・ファッションウィーク(PFW)は、3月11日が最終日。9日間の締めくくりで、注目の大手人気ブランドのショーが続いた。

シャネル

 午前10時30分、パリ中心部にある美術館グラン・パレでシャネルのショーが予定されていた。ここでは昨年12月から日本人アーティストの塩田千春展が開催されていて、展示目当ての行列も出来ていた。

 席に着くと、日本人席の向かい側にVIPが並んでいる。白いジャケットを着用した男性は韓国の人気ドラマ「梨泰院クラス」で主演した俳優のパク・ソジュン。当然だが、苦杯の連続からはい上がるドラマの役柄とは正反対の、華麗な装いだ。

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シャネルの2025年秋冬コレクション=3月11日、パリ、後藤洋平撮影

 次のシーズンからボッテガ・ヴェネタで評価を得たマチュー・ブレイジーをアーティスティックディレクターに迎えるシャネルは、今回はデザインチームが担ったコレクションだ。ブレイジーはボッテガが得意としたレザー加工の商品を芸術品のように昇華させた才人。今後シャネルからますます目が離せなくなるだろうが、その直前の今季も、出来、バランスともによく、とても好印象だった。

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シャネルの2025年秋冬コレクション=3月11日、パリ、後藤洋平撮影

 代名詞ともいえるツイードのセットアップは、オブラートのようにシアーで包まれている。リボンを随所にちりばめ、ボトムスはトレンドに応じるようにマイクロミニ丈。メゾンの伝統と現代の空気感をうまくミックスさせている。

 大きなフェイクパールをつなげたバッグは強いインパクト。パールは様々な用途でアクセサリーとしても登場した。

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シャネルの2025年秋冬コレクション=3月11日、パリ、後藤洋平撮影

 そういえばシャネルのショーの途中、BGMにデトロイトテクノの大御所デリック・メイによる名曲「Strings of Life」が流れた。学生時代よく聴いていた曲なので、すぐに反応してインスタグラムにアップすると、なんとその日のうちにメイ本人から感謝のメッセージが届き、やりとりを交わした。これまではもちろん一切面識がなかったが、「これがSNS時代なのか」と実感した出来事だった。

キコ・コスタディノフ

 午後0時30分、右岸中心部のサン・ラザールのレストランでショーを開いたのはキコ・コスタディノフ。水着のような素材や透け感のある生地をうまく組み合わせ、タイトなシルエットで見せたコレクション。

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キコ・コスタディノフの2025年秋冬コレクション=3月11日、パリ、後藤洋平撮影

 テーブルには招待客1人につき小さなカヌレが1個ずつ置かれていた。お昼どきだったのでショーが終わった瞬間に手を伸ばし、口のなかに放り込んだ。

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キコ・コスタディノフの2025年秋冬コレクション=3月11日、パリ、後藤洋平撮影

ミュウミュウ

 PFW最終日の恒例となっているのは、近年勢いのあるミュウミュウのショー。若者から支持を得る人気VIPも毎回必ず招かれる。

 まず大歓声を浴びたのが、TWICEのMOMO。ファッションウィークを通じて日本人で最も注目される存在といえるのではないか。エントランスで一般の人々の写真撮影にも応じた後は、会場内のフォトコールでポーズ。黄色い壁の前に立つと、同じくMOMOが来場したミラノでのオニツカタイガー(ブランドカラーが黄色)のショーを思い出した。あれは既に2週間近くも前の出来事だ。

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ミュウミュウのフォトコールに立って撮影に応じるMOMO=3月11日、パリ、後藤洋平撮影

 そして、次の大歓声は韓国のアイドルグループIVEのウォニョン。テンガロンハット姿での登場だった。絶対的アイドルのオーラをまとって場内へ。こうして若い女性に人気の女性アイドルを味方につけているのがミュウミュウのPR戦略の軸ではなかろうか。

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ミュウミュウの会場に入ったウォニョン=3月11日、パリ、後藤洋平撮影

 そして、ミュウミュウはモードの先頭を走ってトレンドを生み出す。数年前はマイクロミニ丈、さらにはビンテージ感のあるレザーアイテム。今季は「女性らしさ」を見つめ直したといい、先端のとがったコーンブラの着用が目立つ。インナーやアウターの色使いや柄はシンプル。今回すごく気になったのは、モデルたちの頭上だった。

 まずはハット。かつて「おしゃれに必須のアイテム」だった帽子の市場は、人々がマスクを必要としたコロナ禍以降、明らかに下火になっているが、ショーではフェルトのエレガントなシルエットのハットが様々な色展開で登場した。

 それから、古い映画の中で目にするような古風な髪形の数々。トレンドは巡るというのがファッションの常だが、まさに古いもの(とはいえ絶対どこかに「今風」の要素を入れているはずだが)を新鮮に感じた瞬間だった。

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ミュウミュウのショーでランウェーを歩いた福島リラ=3月11日、パリ、後藤洋平撮影
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ミュウミュウの2025年秋冬コレクション=3月11日、パリ、後藤洋平撮影

アニエスb.

 ミュウミュウのショーを終えると、マレ地区で開催しているアニエスb.の展示会へ。10代の頃に憧れていたブランドで、時間帯によってはご本人も会場に姿を見せると聞いていたので緊張してドアを開けたが、お目にかかることはできなかった。ベーシックながら、襟の高いコートや「本人が長年着ているものと同じ形」というブルゾンなど、シンプルで品のあるコレクションが健在だった。

ウジョー

 日本勢で最後のショーはウジョー。午後6時30分に現代美術館パレ・ド・トーキョーでのスケジュールだった。テーラードジャケットに、左右非対称のボトムスが美しい。

 足元に目をやると、なんとルーズソックス。テーラードにルーズソックスという意外な組み合わせがキュートだった。

サンローラン

 25年秋冬シーズンの欧州ファッションウィークで大トリを飾ったのはサンローラン。エッフェル塔に隣接する左岸のジャン・ド・マルス公園内がショー会場だった。

 サンローランは巨大ファッショングループ、ケリングの一角をなすブランド。グループ内で最も規模が大きいのはグッチだが、「格」という意味では最高峰といえる。ちょうどライバルグループLVMHにおける、ルイ・ヴィトンとディオールの関係性に似ている。なお、ハイファッションの関係者にとっては「必修」で知らない人は皆無なので改めて字にするのはちょっと恥ずかしいけれど、サンローランの創業者イヴ・サンローランはディオールの創業者クリスチャン・ディオールの弟子かつ後継者だった。

 サンローランのショー会場に着いてしばらくすると、韓国の人気俳優チャ・ウヌが到着した。ジャケットを着用し、ネクタイに手をかける姿は彫刻のようだった。

 続いてはスーパースター、BLACKPINKのロゼがお出ましに。会場内では実際には穏やかな曲がかかっていたが、私の脳内では一気にブルーノ・マーズとの、あの大ヒット曲が流れ始めて「アーパツアパツ!」のフレーズがぐるぐる回っていた。

 そんなアップテンポに合わせたような?大混雑のなか、何とか無事にロゼを撮影した後に自分の席についてしばらくすると、なにやら後方が騒がしい。振り返ると、ほぼ背中合わせの位置にロゼが座っている。ここに座ると知っていれば、あんなに必死になることもなかったのに、と苦笑した。

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自分の席に到着し、振り向くとロゼが……=3月11日、パリ、後藤洋平撮影

 ショーの冒頭はオレンジやピンクなどビビッドなドレスが登場した。そして中盤、レザーのブルゾンの腰位置にリボン状のベルトでアクセントをつけるスタイリングに力強さと優雅さを感じた。

 目を見張ったのは後半だ。床につく丈で丸みを帯びた、ボリュームたっぷりのスカートが次々にやってくる。腰の位置には大きなリボン。上半身はレザージャケットやキャミソールなど様々。このイブニングのパートは、まさに大トリにふさわしく圧巻だった。

 16年にアンソニー・ヴァカレロがデザインを手がけるようになって以降、サンローランのショーはメンズ、レディースともに幾度も見てきた。多くのブランドが、売りたいためにモデルたちにバッグを持たせるなか、一切持たせないのが硬派なサンローラン。毎回、「売らんかな」より「美」を優先させる姿勢を感じてきたが、今回はより強く、そう受け取れるコレクションだった。

 会場の外に出ると、夜空にそびえ立つエッフェル塔が、いつもより更に美しく見えた。

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サンローランのショーを終えて地下鉄の駅に向かう途中、シャン・ド・マルス公園から仰ぎ見たエッフェル塔=3月11日午後8時50分、パリ、後藤洋平撮影

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