戦後の日本にとって、のどに刺さった骨のように気になり続ける米国の軍人がいる。カーティス・ルメイ。戦時中に10万人の犠牲を生んだ東京大空襲を指揮したにもかかわらず、戦後は日本政府から勲一等を授与されている。そんな人物の伝記が、このほど出版された。執筆の動機は何だったのか。米文学研究者として知られる学習院大教授の上岡伸雄さんに聞いた。
「北ベトナムを石器時代に戻せ」
第2次大戦中に米陸軍航空軍の将軍として東京大空襲を指揮したカーティス・ルメイについては、聞いたことがあるという程度の知識しかありませんでした。米文学研究者として、カート・ボネガットら著名作家たちが「北ベトナムを石器時代に戻せ」というベトナム戦争時のルメイの言葉を作品中に用いているのが気になり、どんな人物だったのかを調べるうちに、日本で初となる彼の伝記を書くことになったのです。
この非道な言葉は、回想録をまとめた作家が創作したものらしい、とのちにわかりましたが、いかにもルメイが言いそうなことです。戦後、米空軍の幹部となり、ソ連を敵視する超タカ派として、キューバ危機やベトナム戦争で核兵器使用も辞さない強硬な攻撃を主張した人物ですから。彼の意見が通っていたら、人類は滅びていたかもしれません。
一晩で10万もの命を奪った東京大空襲を実行した人物として、日本でも残忍なサディストというイメージが流布していますが、資料や本人の回想録を調べると、別の像が浮かびます。
戦前は「鬼畜」 戦後は勲章授与
ひとことで言えば、合理的で…