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今季限りで競技の第一線を退くことを発表し、長女の果緒さんから花束を受け取った寺田明日香=2025年4月15日、東京都内、加藤秀彬撮影
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 2019年のシーズンが始まる前、プロ陸上コーチの高野大樹さんから、こんな話を聞いた。

 「今、面白い選手を指導しているんだよ。12秒6台をめざしたいね」

 動画で、その選手の様子を見せてもらった。筋肉質な体つきで、力強い走り。寺田明日香、という名前を聞いて、過去に、日本のトップハードラーとして活躍したその名前をすぐに思い出した。

 その6年前に陸上から一度引退し、結婚、出産、ラグビー選手を経て、再び陸上に復帰したことは後に知った。ただ、「12秒6台」というその目標が、当時のハードル界で現実的だとは思えなかった。

 女子100メートル障害は長く低迷していた。00年に金沢イボンヌが出した13秒00の日本記録は当時、19年間も更新されていなかった。日本選手には、12秒台突入さえ困難な時代だった。

 だが、寺田さんはあっさりその壁を突破した。復帰した19年、8月に13秒00を出し、9月に19年ぶりの日本新記録となる12秒97をマーク。一躍、注目の存在となった。

 ハードル競技をしてきた私が、初めて寺田さんと会ったのは19年10月に山口県であった競技会だった。共通の知人が複数いたため、私のことも知ってくれていた。

 出会ったその瞬間から「くん…

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