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連載「『嫌だ』がどうして届かない 性的同意と司法の今」取材後記

連載「『嫌だ』がどうして届かない」取材後記 大貫聡子

 「性的同意」をめぐる司法判断が揺れている現状について「『嫌だ』がどうして届かない」を3月に連載した。取材した記者がインタビューなどを通して感じたことをつづる。

  • 「同意のない性行為は犯罪」めざしたが 刑法改正後も根強い男性目線
  • 侮蔑の言葉は「ひわいな言動」なのか 男性優先の性交観を乗り越える

     ◇

 昨年12月、ある性暴力事件の無罪判決に抗議するフラワーデモがあった。寒空の下、性被害当事者や支援者ら約300人が集まり、被害を訴えた女性との連帯を示した。

 「苦しいのがいいんとちゃう」「苦しいって言われたほうが男興奮するからな」「いいってなるまでしろよ、お前」。これは、口腔(こうくう)性交を求められ、「苦しい」「やめてください」と訴えた女性に男性らがかけた言葉だ。こうしたやりとりを裁判所は「性行為の際に見られることもあるひわいな言動と評価可能」と判断した。拒絶の言葉をその意味の通りに受けとめてくれないことに女性たちは絶望し、性交観、女性観のゆがみに抗議の声を上げていた。

 だがSNSでは「判決を読んでいないのでは」「推定無罪の原則を知らないのか」など、声を上げた女性たちを冷笑し、「冷静」になるよう求める声も目立った。

 その後、性暴力に詳しい複数の専門家に取材をしたが、判決全文を読んだ上でなお、判決の認定や現在の刑法の規定には疑問や問題があると指摘する識者が多かった。

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フラワーデモで、集まった人たちが「同意のない性行為は全て犯罪」などと訴えた

 2019年3月に相次いだ性暴力事件の無罪判決をきっかけに始まったフラワーデモは、同意の有無に主眼を置く「不同意性交罪」につながった。

 実の娘へ継続的に性暴力を振るった父を無罪とした判決があった。わずか13歳で性的行為に同意できるとみなす条文があった。こうした司法の誤りを指摘し、法律を変えてきたのは「冷静」になるよう言われても、あきらめずに声を上げ続けた当事者たちだ。

 「性と生殖に関する健康と権利」について発信する「#なんでないのプロジェクト」代表の福田和子さんは、冒頭のフラワーデモで「この判決の残酷さを他人ごとと思えない世界線に生きているから、声を上げている。まずはこのことが真摯(しんし)に受け止められること。話はそれからだ」と力を込めた。

 事件は現在、検察側が上告、判断は最高裁に委ねられている。どんな判断になるのか注視したい。

 23年の改正刑法時、付帯決議には、性犯罪の司法手続きに当たって、被害者の心理やトラウマ、被害者と相手方の関係性を適切に踏まえる必要性があることも明記された。

 暴力が犯罪と認められない世界では安心して生きられない。

 声を上げる当事者をなだめ、冷静になるよう求める人は、その人の言葉や痛みを軽んじていないか。自分の行為が加害に加担していることになっていないか、考えてみてほしい。

【連載】「嫌だ」がどうして届かない~性的同意と司法の今

 「不同意性交罪」ができて1年半あまり。法律名は変わっても、同意をめぐる司法の判断は揺れ続けています。司法、そして社会の意識はアップデートされているのでしょうか。

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「嫌だ」がどうして届かない~性的同意と司法の今

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