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判決後に会見する原告の江蔵智さん(中央)と代理人弁護士ら=2025年4月21日午後1時50分、東京・霞が関、黒田早織撮影

 67年前の出生直後に都立病院で別の新生児と取り違えられた男性が「出自を知る権利」があると訴え、生みの親に連絡をとるための調査を東京都に求めた訴訟で、東京地裁(平井直也裁判長)は21日、都に調査を命じる判決を言い渡した。

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 原告側代理人によると、取り違えた病院に出自の調査を命じた判決は初めて。

 原告の男性は、都が運営していた「墨田産院」(墨田区、閉院)で生まれた江蔵智さん(67)。江蔵さんが2004年に起こした別の訴訟の判決は、産院の過失で取り違えが生じたと認め、2千万円の賠償を都に命じた。江蔵さんは21年、生みの親捜しへの協力を都に求めて再び提訴した。

 今回の判決は、出自に関する情報は「自身の重要な歴史的事実」で、それを知ることは、憲法13条が保障する「個人の人格的生存」にかかわる法的利益だと認めた。日本も批准する「子どもの権利条約」が保障する出自を知る権利は、日本でも保障されていると言及したが、この権利について具体的に定めた法律が国内にないため、都に調査の法的義務を課す根拠にはならないとした。

 一方で判決は、両親が分娩(ぶんべん)時に病院と結んだ契約を重視した。江蔵さんと生みの親は、この契約で「生みの親に子が引き渡される権利」を得たと指摘した。

 この契約の履行は「親子の関係性の根幹に関わる問題」で、取り違えが生じた場合、病院には「生みの親を発見するため調査を尽くす義務」があると認定。出生届の情報が記された「戸籍受付帳」から江蔵さんの出生前後(1958年4月1日~30日)に生まれた人を調べたり、対象の男性を戸別訪問してDNA鑑定への協力を依頼したりすることを都に命じた。

 都は、取り違えの可能性を知らせるのは「生みの親の権利侵害になる」と主張したが、判決は「(生みの親は)意思に沿わなければ、調査を断ることができる」と退けた。

「都は一刻も早く調査を」

 江蔵さんは判決後の会見で、「私の主張を認める判決が出て感謝している。都は控訴せず、一刻も早く調査をしてほしい」と話した。

 取り違えが認められてから、この日の判決まで約20年。「生みの両親に会いたい。兄弟がいるなら会いたい」との思いは変わらないものの、判決が確定するまで「うれしいとは思えない」という。

 江蔵さんの代理人の小川隆太郎弁護士は、「出自を知る権利が法整備されていない日本でも、憲法や条約に基づき保障されていると認められた。意義のある判決だ」と評価した。

 都は「判決内容の詳細を踏まえて対応を検討する」とコメントした。

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