Smiley face
写真・図版
医者(右)に心を入れる手術をしてもらうロボットの置物=2025年4月17日午後0時36分、神戸市兵庫区、宮坂奈津撮影

 机の上のパソコンの横で、工具を手にした医者とロボットのミニチュアの人形が向き合っている。

 ロボットは胸元が四角くくりぬかれている。医者はピンク色のハートをそこに入れようとしている。

 「このロボットは、私なんです」

 兵庫県監察医務室(神戸市兵庫区)の常勤監察医・長崎靖さんはいう。このミニチュアは20年前、ある大事故で、数多くの遺体と無心で向き合っていた自分への「戒め」だ。

 監察医は死体解剖保存法に基づき、事件や事故などで亡くなった遺体の死因を、現場の状況から調べる「検案」をする。それでも死因がわからない場合は「解剖」もする。

 地元の高知医大(現・高知大医学部)の法医学教室で助教を務めていたとき、知り合いの医者から兵庫県の監察医に空席があると持ちかけられた。同郷の妻も神戸に行くことに賛同し、「なりゆきで」2001年に赴任した。

 日々の業務に慣れてきた05年4月25日、JR宝塚線(福知山線)脱線事故の一報を受けた。現場の尼崎市は担当区域外だったが、午後7時ごろ、応援要員として、遺体安置所となった体育館に向かった。そこでは検視をする警察官、JR西日本の社員、そして遺族らが入り乱れていた。

 遺体が次々と運び込まれた…

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