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小野夏鈴さんがノックを打つ姿を撮影する吉田晴花さん=2025年3月26日午後2時53分、千葉県我孫子市
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 SNSの「TikTok」で、ある投稿がバズっているのを見つけました。野球部員が雨の後のグラウンドで水抜きをする動画が再生数100万回以上。他にも、女子マネジャーのノックや球児の普段の様子を映した動画が多くの人に届いていました。

 気になって、我孫子(千葉)のグラウンドを訪ねました。

 3月下旬、千葉県北西部にある手賀沼のほとり。学校から約3・5キロ離れた専用球場で練習試合が行われていました。過去2回、夏の甲子園に出場した県立高。1978年夏の出場記念碑にはプロ野球阪神タイガースで活躍して監督も務めた卒業生の和田豊さんの名前も刻まれています。

 3人のマネジャーが忙しく動き回っていました。すると、そのうちの一人、小野夏鈴(かりん)さん(3年)がアナウンスする加藤夢菜(ゆめな)さん(2年)をスマホで撮影し始めました。動画の作成者はマネジャーたちでした。

 2022年夏からTikTokに投稿を開始。きっかけは河本潤吾部長の危機感でした。「野球部って閉鎖的。保護者の人たちにも普段の様子を見てほしい」と感じていた河本部長。部員数は1学年10人ほど。周囲では県立校の連合チームが増え、野球人口の減少の影響を痛感するようになり、「魅力を情報発信していかなければ」と提案したそうです。

 それに応えたのが、今年3月に卒業した吉田さくらさん(18)でした。当時は1年生で最初は戸惑ったそうですが、先輩マネジャーのノック姿を初投稿したところ想像以上の反響が。そこから「バズり」をめざす日々が始まりました。従来の役割をこなしながら、動画のアイデア出し、撮影、編集と試行錯誤してきました。おちゃらけた動画ではなく部員の素顔やかっこいいところを伝えるよう心がけ、天気や時間帯によって学生がスマホを使いやすいタイミングに投稿するなど、より見てもらうコツも研究しました。

 思いは後輩たちへとつながっていきます。小野さんは中学まで野球経験者。高校では入部を迷っていましたが、動画を見てマネジャーに興味を持ち、野球部へ。加藤さんは、「TikTokを見て、我孫子がいいな」と思って進学先に決めたそうです。

 部員数が1学年20人超になったチームを束ねる竹内束颯(つかさ)主将(3年)は「学校からグラウンドが離れているので、他の生徒や保護者、地域の方にも(SNSを通じて)見てもらえるのが、モチベーションにつながる」と感謝します。

 もう一人のマネジャーの吉田晴花さん(2年)も、動画の編集の大変さに触れつつ「TikTokとかを見ている人に『あ、ここいいな』ってとまってもらえるような、かっこいいし、印象に残る動画づくりを意識しています」と話します。

 SNSは思わぬトラブルを引き起こすこともあります。「道具は使い道によって良くも悪くもなる」と坪田直樹監督。だからこそ、部活動での使用を通じて学ぶ機会を設けたそうです。マネジャーたちも部員の意向確認や個人情報が流出しないような配慮など、ポイントはしっかりと押さえていました。

 「応援されるチーム」をめざす我孫子にとってSNSは大事な武器。動画をつくる僕にも「もっと体を張ってみては」とアドバイスをくれた吉田さくらさんの言葉が印象的でした。「我孫子の投稿がバズりにバズって世界まで届いてほしい」。高校野球のリアルな魅力がSNSで海を越えて広がっていく――。我孫子の夢がかなう日を楽しみにしています。

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